「あ、共感とかじゃなくて。」

見知らぬ誰かのことを想像する展覧会

SNSの「いいね!」や、おしゃべりの中での「わかる~~~」など、日常のコミュニケーションには「共感」があふれています。共感とは、自分以外の誰かの気持ちや経験などを理解する力のことです。相手の立場に立って考える優しさや思いやりは、この力から生まれるとも言われます。でも、簡単に共感されるとイライラしたり、共感を無理強いされると嫌な気持ちになることもあります。そんな時には「あ、共感とかじゃなくて。」とあえて共感を避けるのも、一つの方法ではないでしょうか。

この展覧会では、有川滋男山本麻紀子渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)武田力中島伽耶子の5人のアーティストの作品を紹介します。彼らは作品を通して、知らない人、目の前にいない人について考え、理解しようとしています。安易な共感に疑問を投げかけるものもあれば、時間をかけて深い共感にたどりつくものもあります。それを見る私たちも、「この人は何をしているんだろう?」「あの人は何を考えているんだろう?」と不思議に思うでしょう。謎解きのように答えが用意されているわけではありませんが、答えのない問いを考え続ける面白さがあります。共感しないことは相手を嫌うことではなく、新しい視点を手に入れて、そこから対話をするチャンスなのです。

家族や友人との人間関係や、自分のアイデンティティを確立する過程に悩むことも多い10代はもちろん、大人たちにも、すぐに結論を出さずに考え続ける面白さを体験してほしいと思います。

参加アーティスト

有川滋男(ありかわしげお)
部屋に入ると、それぞれの会社が業務内容を説明するブースが並んでいます。モニターの動画を見て考えてみましょう。この人は何をしているのか。何のための仕事なのか。この後何が起こるのか。

―映像作家。人間は見ているものに、意味を読み取ろうとする。そこであえて意味を分かりにくくして、「見る」ことの不思議さを問いかける。アムステルダム在住

  • 黒い壁の企業ブースが左右に2つずつ並んでいます。看板と床の色は、ピンク、緑、水色、黄色で色分けされており、看板には会社名のようなものが書かれています。ブースの奥にはそれぞれモニターがあり、映像が流れています。正面にもモニターが1つあり、工事用フェンスで囲まれています。

    有川滋男作品 展示風景 photo: ookura hideki | KUROME photo studio

  • 白い服を着た黒髪の女性たちが4人、小さいマイクに向かって並んで立っています。彼女たちの目線は、そのうちの黒いヒジャブをかぶった女性が手に持っているカードのようなものに注がれています。彼女たちの背後には電光掲示板があり、「TOT>434」と表示されています。

    有川滋男《ディープリバー》2023年より

山本麻紀子(やまもとまきこ)
巨人の落とし物である大きな歯を作ったり、その歯を抱えて眠って見た夢の絵を描いたりしています。植物や土に触れながら、生きのびること、待つことについて考え、巨人の世界を知ろうとしています。

どこかの場所について詳しく調査し、そこに住む人たちとのコミュニケーションを元に作品を作るアーティスト。落とし物を拾うのが得意。滋賀県在住

  • 明るい色の木の床が張られた、家のような空間です。少し奥に玄関があり、靴を脱いであがるようになっています。玄関の奥には、大きな歯が横たわっています。壁にあたる部分は透明な板になっていて、小さなガラス瓶や壺などが桟の上に飾られているのが見えます。

    山本麻紀子作品 展示風景 photo: ookura hideki | KUROME photo studio

  • 右側に大きな巨人の歯があり、その左側でオリーブグリーン色の寝袋にくるまった小さなこどもが、手を伸ばして感触を確かめるように、巨人の歯を撫でています。

    横の寝袋にくるまり、巨人の歯を優しく撫でる来館者 山本麻紀子《巨人の歯》2018年 photo: ookura hideki | KUROME photo studio

渡辺篤(わたなべあつし)アイムヒア プロジェクト
新型コロナがはやって、みんなが外出や人に会うのを控えていた時、同じ月を見て、写真を撮るというプロジェクトを始めました。寂しさを感じている人、見えないつらさを抱えている人がいることを、いつも思い出せるように。

元ひきこもりで、当事者をケアする活動家でもある。アーティストとして、孤立している人の存在を多くの人に想像してもらおうとしている。神奈川県在住

  • 縦長の展示室の全体を見ている写真です。一番奥には、大きな青い月が浮かんでいます。その手前の床には、黒いカーペットが丸い形に敷かれています。右側の壁は、カーテンのついた窓のように見え、オレンジ色の光がカーテンの隙間から見えています。左側は青い光が印象的で、小さい写真がたくさん貼りこまれたライトボックスのようなものが並んでいます。

    渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)作品 展示風景 photo: ookura hideki | KUROME photo studio

  • 薄暗い部屋の白い壁に2点の作品が展示されています。右側は30~40センチほどの大きさの丸い写真で、髪の長い男性が写っています。左側のドアの形をした作品は白いコンクリートでできており、粉々に割れたものを繋ぎあわせたように見えます。

    渡辺篤《セルフポートレート》《ドア》2016年 photo: ookura hideki | KUROME photo studio

武田力(たけだりき)
移動図書館のような車に、むかし誰かが使っていた小学校の教科書が並んでいます。自分と同じ教科書はありますか?さまざまな時代や地域の教科書と比べたり、らくがきから元の持ち主を想像したりしながら、社会や教育について思いをめぐらせます。

演出家、民俗芸能アーカイバー。参加者との相互作用で生まれる作品や、盆おどりのように誰かの暮らしで生まれた動きを新しい世界に渡す活動など。東京都/熊本県在住

  • お寺や古民家のような畳敷きの部屋の中で、7人の人物が座っています。4人は正座をしており、2人は胡坐、そして高齢の男性は重ねた座布団をイスのようにして座っています。「で、タコを俳優にしようと思っていて。そういう作品です」と字幕が表示されており、手前の正座している男性が発言者のようです。

    武田力《朽木古屋六斎念仏踊り継承プロジェクト》2023年より

  • 外光の入る明るい屋内に人工芝が敷かれ、その上に軽トラックがあります。軽トラックの荷台には、フードトラックのように大きく開口部のある小屋が乗っており、その中には本棚があります。小屋の中には男性がいて、軽トラックの横に立つ女性と談笑しています。軽トラックのタイヤの横には小さな黒板があり、「武田力《教科書カフェ》」と書かれています。

    会期中、作家本人がふらっと登場することもある 武田力《教科書カフェ》2019年 photo: ookura hideki | KUROME photo studio

中島伽耶子(なかしまかやこ)
空間を大きく斜めに横切る黄色い壁は、暗い部屋と明るい部屋を隔てています。壁の向こう側の様子は、音や光でうかがい知るしかありません。相手を知ることはできますか?対話のテーブルにつくことはできますか?

壁や境界線をモチーフにして、分かりあえなさについて考える。家全体を使うなど、見る人が身をおく空間全体を作品にする。秋田県在住

  • 明るくてとても天井が高い空間から、石の壁を隔てた先にある、少し天井が低くて狭い部屋に入ろうとしている人がいます。その人の目線の先には、黄色い壁があります。黄色い壁は、天井が高い空間から天井が低い部屋へと、石壁を貫いてつながっています。天井が低い部屋の方の黄色い壁は、少しキラキラしています。

    中島伽耶子《we are talking through the yellow wall》2023年 photo: ookura hideki | KUROME photo studio

  • 黄色い壁に、縦横等間隔にドアスコープのようなものがついており、眼鏡をかけた人が覗き込んでいます。その人物の右手は、玄関のチャイムのようなボタンに置かれています。

    中島伽耶子《we are talking through the yellow wall》2023年 photo: ookura hideki | KUROME photo studio

基本情報

会期

2023年7月15日(土)~11月5日(日)

休館日

月曜日(7/17、9/18、10/9は開館)、7/18、9/19、10/10

開館時間

10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)

会場

東京都現代美術館 企画展示室 B2F

観覧料

一般1,300 円 (1,040円)/ 大学生・専門学校生・65 歳以上900円 (720円) / 中高生500円 (400円) /小学生以下無料

【お得な2展セット券】「デイヴィッド・ホックニー展」+「あ、共感とかじゃなくて。」
一般3,200円、大学生・専門学校生・65歳2,100円、中高生1250円

(  ) 内は20名様以上の団体料金
※本展チケットで「MOTコレクション」もご覧いただけます。
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、その付添いの方(2名まで)は無料になります。
2005年4月2日以降生まれの方の観覧料について
※本展は当日に限り再入場が可能です。

チケットは当日、美術館チケットカウンターで販売しています。事前にオンラインチケット(日付指定)からも購入頂けます。

オンラインチケットはこちら

主催

公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館

助成

駐日オランダ王国大使館

協力

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展覧会公式図録

当館ミュージアムショップ店頭およびナディッフオンラインにて発売中です。
※お代金先払いのため、ご予約後のキャンセルはお断りしております。

参加作家:
有川滋男、山本麻紀子、渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)、武田力、中島伽耶子

掲載内容:
・インスタレーションビュー
・参加作家への質問
・展覧会キュレーター八巻香澄によるテキスト
・演劇モデル長井短によるエッセイ

発行年:2023年8月末
サイズ:B5変型 206×182×7mm
仕様:中綴じ製本、80ページ
デザイン:大内智範
言語:日本語・英語
発行: 東京都現代美術館
価格:1,400円 (税込) / 配送料+370円(税込)

関連プログラム

  • photo: ookura hideki | KUROME photo studio

  • /11 担当学芸員によるゆるゆるギャラリートーク
    サマーナイトミュージアムの夜間開館にあわせ、19時からスタート。展示作品のちょっとしたポイントや制作こぼれ話などを、担当学芸員がのんびりお話ししました。
    トーカー 八巻香澄(東京都現代美術館 学芸員)

  • 8/28 渡辺篤 アーティストと一緒に作品を見るツアー(不登校編)
    学校に行かないことにした人たちのために、参加アーティストの渡辺篤さんが展覧会を案内するツアーを、休館日の誰もいない展示室で行いました。
    ガイド 渡辺篤さん
    ファシリテーター 石井しこうさん(NPO法人全国不登校新聞社)
    協力 NPO法人全国不登校新聞社

  • 渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)作品 展示風景
    photo: ookura hideki | KUROME photo studio

  • 10/23 渡辺篤 アーティストと一緒に作品を見るツアー(ひきこもり編)
    ひきこもり・生きづらさの当事者を対象として、参加アーティストの渡辺篤さんが展覧会を案内するツアーを、休館日の誰もいない展示室で行いました。
    ガイド 渡辺篤さん
    ファシリテーター 石崎森人さん(ひきこもりUX会議、ひきポス編集長)、恩田夏絵さん(ひきこもりUX会議、ピースボートグローバルスクールコーディネーター)
    協力 一般社団法人ひきこもりUX会議

  • photo: ookura hideki | KUROME photo studio

  • 11/3・11/5 担当学芸員によるゆるゆるおしゃべりアワー
    立ち寄ってくれた方と担当学芸員が、展覧会や作品についての質問や感想からはじまり、仕事の話や友達の話、これまで行った美術館の話など脱線しながら、「共感」についておしゃべりをしました。

「空をながめる野原」に置いてあった本・資料のリスト

ユニセフ・イノチェンティ研究所「イノチェンティ レポートカード 16 子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か」日本ユニセフ協会, 2021.2 https://www.unicef.or.jp/library/pdf/labo_rc16j.pdf
山口有紗 小澤いぶき 長谷川真澄 澤田なおみ 編「こども1万人意識調査こども向けレポート」公益財団法人日本財団, 2023.9 https://kodomokihonhou.jp/news/img/230923.pdf
新雅史, 関水徹平 監修『ひきこもり白書2021 1,686人の声から見えたひきこもり・生きづらさの実態』ひきこもりUX会議, 2021.6
ヨシタケシンスケ 著『にげてさがして』赤ちゃんとママ社, 2021.3
加藤雅江 ことば, 細尾ちあき イラスト『いろんなきもちあるある22のメッセージ』本の種出版, 2023.9
田房永子 著『なぜ親はうるさいのか : 子と親は分かりあえる? 』筑摩書房, 2021.12, (ちくまQブックス)
石井志昂 著『フリースクールを考えたら最初に読む本』主婦の友社, 2022.11
伊藤美奈子 監修『「学校」ってなんだ? : 不登校について知る本』Gakken, 2023.2
いしいみちこ 著『高校生が生きやすくなるための演劇教育』立東舎, 2017.5
古賀史健 著, ならの 絵『さみしい夜にはペンを持て』ポプラ社, 2023.7
石垣琢麿 編『若者たちの生きづらさ : 不確実なこの社会でいかに伴走するか』日本評論社, 2023.3
ブレイディみかこ 著『他者の靴を履く: アナーキック・エンパシーのすすめ』文藝春秋, 2021.6
永井陽右 著『共感という病 : いきすぎた同調圧力とどう向き合うべきか?』かんき出版, 2021.7
ポール・ブルーム 著, 高橋洋 訳『反共感論 : 社会はいかに判断を誤るか』白揚社, 2018.2
ジャミール・ザキ 著, 上原裕美子 訳『スタンフォード大学の共感の授業 : 人生を変える「思いやる力」の研究』ダイヤモンド社, 2021.7
阿比留久美 著『孤独と居場所の社会学 : なんでもない"わたし"で生きるには』大和書房, 2022.11,(未来のわたしにタネをまこう05
飯村周平 著『HSPブームの功罪を問う』岩波書店, 2023.1,(岩波ブックレットNo.1074)
竹端寛 著『ケアしケアされ、生きていく』 筑摩書房, 2023.10,(ちくまプリマー新書438
キムジヘ 著, 尹怡景 訳『差別はたいてい悪意のない人がする : 見えない排除に気づくための10章』大月書店, 2021.8
坂上香 著『根っからの悪人っているの? : 被害と加害のあいだ』創元社, 2023.10,(シリーズあいだで考える)
荒井裕樹 著『まとまらない言葉を生きる』柏書房, 2021.5
谷川嘉浩, 朱喜哲, 杉谷和哉 著『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる : 答えを急がず立ち止まる力』さくら舎, 2023.2
帚木蓬生 著『ネガティブ・ケイパビリティ : 答えの出ない事態に耐える力』朝日新聞出版, 2017.4,(朝日選書958

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