当館の崔敬華学芸員が第18回西洋美術振興財団賞を受賞しました。
この度、当館の崔敬華(Che Kyongfa)学芸員が第18回西洋美術振興財団賞「学術賞」を受賞しました。
西洋美術の振興等を目的として1995年に設立された公益財団法人西洋美術振興財団が、2006年に創設した同賞は西洋美術の理解と文化交流の促進、西洋美術研究に寄与のあった優れた活動を顕賞し、さらなる振興を図るものです。多年の研究成果をもとに組織され、今後の研究発展への貢献度が高く、かつ、学術的にも優れた価値を有する展覧会の企画構成者に贈呈されます。
今回、崔学芸員が企画し、当館で2022年11月12日~2023年2月19日まで開催した「ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台」展が受賞対象となりました。ファン・オルデンボルフ氏をはじめ、本展にお力添えいただいた関係者の方々、そしてご来場いただいた皆様に御礼申し上げます。
■選考理由 (大髙保二郎・選考審査委員長の総合選評による)
「ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台」展は、オランダに生まれ、ベルリンで活躍する現代気鋭の映像作家、ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ(1962〜)の映像作品による実験的で野心的な挑戦である。《マウリッツ・スクリプト》(2006)から最新作《彼女たちの》(2022)までの6本が、会場内でそれぞれが舞台のように独立して映写された。それらは植民地主義、ナショナリズム、戦争、家父長制、ジェンダーといった今日的な問題を、語り(発話)とイメージ(映像)を交錯させながらポリフォニーとアッサンブラージュの手法のもとに静かに、鮮明に浮き彫りにして見せたのである。特に《彼女たちの》の場合、ファン・オルデンボルフが本展のために来日して、東京都現代美術館の学芸員である崔敬華氏との緊密な対話をとおしてのコラボレーションにより成立した、我われにとってはメッセージ性の強い作品となった。
崔敬華氏は、大正から昭和の混乱と戦争の時代、林芙美子と宮本百合子(そして湯浅芳子)という、政治と文学の歴史に名を刻む二人の日本人女性の波乱に富んだ生涯をクローズアップさせながら現代を生きる人たちの声と共鳴させて、ジェンダー、政治、戦争といった我われが抱える今日的な問題を突き付けている。このユニークで刺激的な映像作品の成立は、ファン・オルデンボルフの映像作品に対して、崔氏からの積極的な資料提供と全面的な恊働があってこそ可能となったのであり、作家と学芸員という関係性に新たな地平を拓くものとなろう。図録は適切にコンパクトにまとめ上げられており、内外の研究者によるエッセイも優れた内容である。このように今日的な意義を有する映像作品の成立と展示は、崔氏が長年培ってきた研鑽と問題意識の賜物であり、今後の映像作品展示への可能性を拡大するものとして、顕彰に十分に値するものと判断された。