MOTアニュアル2024
こうふくのしま
現代美術から新たな側面を引き出すグループ展「MOTアニュアル」の第20回を数える本展では、清水裕貴、川田知志、臼井良平、庄司朝美の作家4名を、その最新作とともに紹介します。
近年、「今ここに立っている」という身体感覚を持つことがますます困難になりつつあります。通信技術や交通手段の発達により、日々膨大な情報に否応なくさらされ、どこへでも移動しやすくなったことで、その傾向はさらに顕著になっています。こうしたなかで、自分自身の足元が何によって形をなし、どこにつながっているのかをあらためて問う行為は、私たちの身体が置かれる場への気づきを引き出し、進むべき方向を探るひとつの手だてとなるでしょう。
副題にある「しま」は、4名の作家が拠点を置く「日本」の地理的条件に対する再定義を含んでいます。この太平洋北西部の島々を、他の陸地から切り離されて海に浮かぶ「閉じられた地形」ではなく、地殻変動を経て海上に現れた地表の起伏であり、海底では他の大陸や島と地続きに連なる「開かれた地形」として捉え直すことは、水面下での見えざるつながりを確かめるための別の視座を提示します。それは、従来の枠組みや境界を超え、あらゆるものが複雑に相作用する世界を見つめ、深く思いをめぐらせることでもあるのです。
本展の作家の仕事もまた、自身の足元を起点にしながら、より大きな文脈や関係へと開かれています。彼ら/彼女らは多様なアプローチを通じて、現実の世界を視覚的に置き換え、描き出すことにより、身のまわりや自己の多義性や重層性と対峙します。これらの作品は、作者の解釈や意図を超え、見る者がそれぞれの視点や感覚、経験を通して主体的に意味を見出すための装置として働き、それぞれに異なる見かたや感じかたを促します。
日本の社会は、戦後その大半を失ったところから再建を始め、経済発展を根拠とする幸福と繁栄への道を歩み、1990年代以降は低迷と停滞が続いていると言われます。しかしながら、こうしたリニアな語りにおいて、複数の要因が絡み合う対立や葛藤は、しばしば解消されないまま見落されてきました。そこで本展では、身辺の汲みつくせない出来事や状況を個々の視点から見直し、形を与えようとする作家たちとともに、もつれ合う世界の複雑さをいかに引き受けるのかという問いに向き合います。
*「MOT アニュアル」は、1999 年の第1 回展以来、異なる文化や表現領域が混合する空間としての東京に拠点を置く東京都現代美術館ならではの視点から、日本の若手作家の作品を中心に、現代美術の一側面を切り取り、問いかけや議論のはじまりを引き出すグループ展です。
参加作家 :清水 裕貴 / 川田 知志 / 臼井 良平 / 庄司 朝美
展覧会のみどころ
「MOTアニュアル2024」では、今後国内外でさらなる活躍が期待される4名の作家の作品を、本展のための新作を含めて展示します。清水裕貴は、写真とテキストで構成されたインスタレーションから、中国の大連と東京湾岸を舞台にした物語を編みます。川田知志は、戦後の日本社会を特徴づける都市部と郊外の風景を主題として、全長約50メートルの壁画を描きます。臼井良平は、日常の些細なものや状況を再現したインスタレーションを通じて、見る者に新たな視点を提示します。庄司朝美は、描くこと/見ることの身体性を強く意識させる絵画により、作品内外の世界を結びつけようと試みます。本展は、これらの作家たちが現在進行形で取り組む創造的な実践に触れていただける貴重な機会です。
作家プロフィール
清水 裕貴(しみず・ゆき)
1984年千葉生まれ、同地在住。2007年武蔵野美術大学映像学科卒業。清水は、水にまつわる土地の歴史や伝承のリサーチをもとに、写真とテキストを織り合わせて架空の物語を創作している。近年は、海水や藻によってネガを劣化させる手法を用いたり、テキストを読み上げる音声を取り入れたりすることで、より重層的な物語の構成を試みている。
近年の主な個展に「浮上」(PGI、東京、2024)、「眠れば潮」(PURPLE、京都、2023)など。主なグループ展に「とある美術館の夏休み」(千葉市美術館、千葉、2022)、「千葉ゆかりの作家展 百年硝子の海」(千葉市民ギャラリー・いなげ/旧神谷伝兵衛稲毛別荘、千葉、2021)。主な受賞歴に2011年1_Wallグランプリ、2016年三木淳賞。2018年新潮社R18文学賞大賞を受賞し、近年は小説も発表する。
川田 知志(かわた・さとし)
1987年大阪生まれ、京丹後在住。京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻(油画)修了。川田は、伝統的なフレスコ技法を軸とする壁画の制作・解体・移設を通じて、日本社会の基盤を支える構造や仕組みとその変化を捉えようとする。近年は、陶磁や琺瑯といった素材を用いた壁画にも取り組み、公共の建築物と壁画の関係性にも関心を寄せている。
近年の主な個展に「川田知志:築土構木」(京都市京セラ美術館 ザ・トライアングル、京都、2024)、「彼方からの手紙」(アートコートギャラリー、大阪、2022)。主なグループ展に「味 / 処」(神奈川県民ホールギャラリー、神奈川、2023)、「ホモ・ファーベルの断片―人とものづくりの未来―」(愛知県陶磁美術館、愛知、2022)。主な受賞歴に、2019年平成30年度京都市芸術新人賞、2020年TOKYO MIDTOWN AWARD 2020準グランプリ。
*1月下旬まで、展示室での壁画制作を予定しています。
臼井 良平(うすい・りょうへい)
1983年静岡生まれ、東京在住。臼井は2011年頃より、身近にあるプラスティック容器などをガラスの彫刻に置き換え、既存のものと組み合わせて構成するシリーズ「PET(Portrait of Encountered Things)」を発表している。些細な日常を切り取り、異なる空間で再現した作品は、普段は意識することのない出来事や状況に目を向ける契機となる。
近年の主な個展に「路上の静物」(無人島プロダクション、東京、2022)、「Solid, State, Survivor」(無人島プロダクション、東京、2020)。主なグループ展に、「驚異の細密表現展 江戸・明治の工芸から現代アートまで」(横須賀美術館、神奈川、2024)、「小村雪岱スタイル 江戸の粋から東京モダンヘ」(岐阜県現代陶芸美術館、岐阜、ほか巡回、2019-21)。
庄司 朝美(しょうじ・あさみ)
1988年福島生まれ、東京在住。大阪、青森、東京にて育つ。2012年多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻版画研究領域修了。庄司は、半透明のアクリル板やカンヴァスを支持体に、絵の具を置いては拭き取るという行為を重ねて絵画を制作する。絵筆を介して身体の境界を拡張するように生み出されるイメージの世界では、裸の人物、亡霊、鳥や動物といった様々な存在が交錯し合っている。
近年の主な個展に「10月、から騒ぎ」(Semiose、パリ、2024)、「足のない歩行」(gallery21yo-j、東京、2023)。主なグループ展に「Body, Love, Gender」(Gana Art Center、ソウル、2023)、「顕神の夢」(川崎市岡本太郎美術館、神奈川、ほか巡回、2023-24)。主な受賞歴に2015年トーキョーワンダーウォール賞、2019年FACE2019グランプリ。2020年令和2年度五島記念文化賞美術新人賞を受賞し、2022年にジョージアにて1年間在外研修を行う。
基本情報
- 会期
2024年12月14日(土)- 2025年3月30日(日)
- 休館日
月曜日(1月13日、2月24日は開館)、12月28日~1月1日、1月14日、2月25日
- 開館時間
10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
- 観覧料
一般1,300円(1,040円) / 大学生・専門学校生・65 歳以上900円(720円) / 中高生500円(400円) / 小学生以下無料
※( ) 内は20名様以上の団体料金
※本展チケットで「MOTコレクション」もご覧いただけます。
※小学生以下のお客様は保護者の同伴が必要です。
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、その付添いの方(2名まで)は無料になります。
※ 毎月第3水曜(シルバーデー)は、65歳以上の方は無料です。(チケットカウンターで年齢を証明できるものを提示)
※家族ふれあいの日(毎月第3土曜と翌日曜)は、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住を証明できるものを提示/2名まで)の観覧料が半額になります。
[学生無料デー Supported by Bloomberg]
2月1日(土)・ 2日(日)の2日間、中高生・専門学校生・大学生は無料です。(チケットカウンターで学生証を提示)- 会場
東京都現代美術館 企画展示室3F
- 主催
公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館