ダムタイプ|アクション+リフレクション
日本を代表するメディアアーティストグループ、ダムタイプによる個展を開催いたします。結成35周年にあたる2019年に開催する本展は、2018年にフランスのポンピドゥー・センター・メッス分館において開催された個展(キュレーション 長谷川祐子)の作品群や新作にパフォーマンスアーカイブなどを加え、よりバージョンアップした内容となります。
ダムタイプは、1984 年に京都市立芸術大学の学生を中心にマルチメディア・パフォーマンス・アーティスト集団として京都で結成され、中心的であった古橋悌二(1960-1995) をはじめとするメンバーが独自の表現活動を展開しつつコラボレーションを行う、ヒエラルキーのない集団として注目されました。
以降、日本の1980年代バブル経済における表層性の中にあった「情報過剰であるにもかかわらずこれを認識できていない(=ダム* )状態」を敏感にとらえ、誘惑と絶望が共存していた時代に、鋭い批評性をもって活動を展開しました。そして、多くの言葉を使う演劇集団の空疎さに対する抵抗として「ダム(セリフの排除)」という手法を選択し、装置、映像、音、これらに反応するパフォーマーの生の身体によって作品を構成しました。彼らは、デジタルと身体が新たな関係を持つことで生まれる「ポストヒューマン」のヴィジョンを、その革新的な視覚言語と思想によって、日本から世界に先駆けて表現したパイオニアといえるでしょう。本展は、大型インスタレーションによって構成される大規模個展であるとともに、古橋悌二の没後も独自のスタイルで若手アーティストに大きな影響を与える高谷史郎や池田亮司らに加え、若いメンバーを得て活動を続けるダムタイプの、まさに「ダムタイプ- タイプ」といえる卓越したあり方を包括的にみせる試みです。
*ダム dumb [英] :間抜け、ばかげた、口をきこうとしない、の意
展覧会の3つのみどころ
(1)新作を加え、フランスでの個展をバージョンアップ
好評を博したポンピドゥー・センター・メッス分館での個展(2018年)の作品群に新作を加えてバージョンアップし、さらにパフォーマンスアーカイブ等を付加して展開します。本展は、結成35 周年の契機に、新作を含む6点の大型インスタレーションを一挙に目にする、国内でも貴重な機会となります。
(2)個性に満ちた圧倒的な空間体験
古橋生前のパフォーマンス《Pleasure Life》に基づく《Playback》、初演時の舞台装置の再現《pH》、「人間の条件」展(1994)と同年の舞台《S/N》による作品《LOVE/SEX/DEATH/MONEY/LIFE》や、古橋没後の3つのパフォーマンスを再構成した《MEMORANDUM OR VOYAGE》(2014) に加え、古橋悌二《LOVERS》(1994/2001、second edition、国立国際美術館所蔵)を展示し(2020 年1 月19 日まで)、卓越したサウンドデザインによる空間体験を提供します。
(3)メンバーや研究者らによるアーカイブ展示、カタログレゾネ刊行
古橋生前と没後の系譜、現在までを俯瞰的に追いながら、ダムタイプという集団が持っていた独創性、そして現在のインターネット社会においても通じる彼らの先駆的なメッセージを、メンバーや新旧世代の研究者・関係者等による展示によって紹介します。また、多数の作品写真を含む、図録を兼ねた作品集もあわせて刊行します。
(河出書房新社刊、3,300 円 言語:日英バイリンガル)
※ 会期中に小規模展示替えを予定しています。予定作品及び展示内容は変更になる場合があります。
作家プロフィール
ダムタイプ
ダムタイプは、ヴィジュアル・アート、建築、コンピューター・プログラム、音楽、映像、ダンス、デザインなど様々な分野の複数のアーティストによって構成されるグループである。1984 年に京都で結成以来、集団による共同制作の可能性を探る独自の活動を続ける。美術、演劇、ダンスといった既成のジャンルにとらわれない、あらゆる表現の形態を横断するその活動は、プロジェクト毎に作品制作に参加するメンバーが変化するなど、ゆるやかなコラボレーションによって、現代社会における様々な問題への言及を孕む作品を制作してきた。1995 年にグループの中心的存在だった古橋悌二がエイズによる感染症のため急逝するまで、初期ダムタイプを代表するパフォーマンス作品《Pleasure Life》(1988)、《pH》(1990-1995)、《S/N》(1994-1996)は世界中で上演され、古橋の死後もダムタイプは高谷史郎のディレクションのもと、《OR》 (1997-1999)、《memorandum》 (1999-2003) 、《Voyage》 (2002-2009) といった作品群を、従来通り参加メンバーによる共同制作で創作活動し続けてきた。2018 年1 月から5 月にポンピドゥー・センター・メッス分館にて、ダムタイプ初の大規模な海外個展を開催。また2020 年3 月には、ロームシアター京都にて、約18 年ぶりとなる新作パフォーマンスの上演を計画している。
* 詳細は作家URL 参照 http://dumbtype.com/
古橋悌二(1960-1995)
1960 年京都生まれ。京都市立芸術大学美術学部構想設計専攻在学中の1984 年に「ダムタイプ」創設、中心的メンバーとして活動。1985 年東京国際ビデオビエンナーレ奨励賞受賞。ダムタイプのメンバーとして、大阪国際演劇祭 (1986)、ニューヨーク国際芸術祭 (1988)、ICA /ロンドン (1988)、デンマーク王立美術館 (1988)、「Against Nature」展、全米巡回 (1989-1990)、Wiener Festwochen /ウィーン (1992) 、Centro de Arte Reina Sofia /マドリード(1992)、シドニー現代美術館(1992)、アデレード・フェスティバル (1994)、グッゲンハイム・ソーホー/ニューヨーク (1994)、モントリオール現代美術館 (1994)、ニューヨーク近代美術館 (1995)、The Power Plant /トロント (1995)、サンフランシスコ近代美術館 (1995)、ARHUS FESTUGE /オーフス (1995)、ハーバーフロント・センター/トロント (1995)、SPIEL.ART /ミュンヘン (1995) 等で作品を上演、展示。古橋がディレクションしたビデオ作品「pH」 は、1992 年、IMZ-dance screen ’ 92(ドイツ)Best Stage Recording 賞、TTVV-Riccione(イタリア)Sole d’ Oro 賞を受賞。
主な展示作品
《Playback》2018
パフォーマンス《Pleasure Life》(1988 年初演)をベースに、展覧会「Against Nature」(1989)のために制作されたインスタレーション《Playback》に基づいて制作された、リモデル版作品。16台のターンテーブル・ユニットの上で、本物のレコード盤が、当時の音源(80 年代初期ダムタイプの山中透・古橋悌二による音楽、英語教材の滑稽で風変わりな声、NASA の惑星探査機ボイジャーに搭載されていたレコードに記録された55 言語の挨拶)に加え、新たにフィールド・レコーディングした音素材をミックス再生するサウンドスケープ・インスタレーション。
《pH》2018
パフォーマンス《pH》(1990 年初演)の象徴的な舞台装置を再現。初演ではパフォーマンス・エリアを横切るように移動し常時パフォーマーの動きを制限していたトラスは、パフォーマーのいない無人の装置となって、スキャナーのようにコンピュータ制御で動き続ける。「pH」とは、物質の酸性/アルカリ性の度合を示す用語。パフォーマンスは二項対立の図式にそって13 のphases―「問い/答え、イメージ/言葉、事実/虚構、拡張/圧縮、公/私、現実/非現実、攻撃/防御、緊張/弛緩、生産/再生産、男/女、外/内」、そして最後に第一場と最終場に共通する「開始/終焉/再開」から構成されていた。
《LOVE/SEX/DEATH/MONEY/LIFE》2018
展覧会「人間の条件」展(1994)のために制作されたビデオインスタレーション。その映像は、同年初演のパフォーマンス《S/N》の舞台でも投影された。《S/N》というタイトルは音響用語の「S/N 比」に由来し、「Signal/Noise」を意味する。《S/N》は、今日の社会が直面する切実な問題であるジェンダー、エイズ、セクシュアリティなどを軸とし、人種、国籍、あらゆるマイノリティや性差別など、現代社会が抱える諸問題を正面から捉え、パフォーマンスのみならず、周囲のさまざまなコミュニティとの交流・連携といったアクティヴィズムまでも巻き込み展開された。
《MEMORANDUM OR VOYAGE》2014
ダムタイプの過去3作品《OR》(1997)、《memorandum》(1999)、《Voyage》(2002)から印象的/象徴的なシーンをピックアップし、さらに新しく撮影した映像素材を組み合わせて再編集して一つのビデオインスタレーション作品として制作。(※本作は2014 年に東京都現代美術館で発表・展示された)《OR》は、古橋悌二が死の直前に書き残した次回作のコンセプトメモ「生と死の境界について」「どれほど科学はその境界を制御できるか、どれほど我々の精神はこの境界を制御できるのか。」というアイデアから出発した。タイトルには生と死の境界に加え、自分と他者の境界がホワイトアウトする世界、二進法、二者択一、見えない円=すなわち点、オペレーション・ルーム等の意味が含まれている。《memorandum》は、16 人のメンバーによる「記憶」に関するオムニバスであり、圧縮された多くの記憶の断面を時間軸上に組み上げた迷宮のような複雑な構造を持つ。舞台上の半透明スクリーンが「記憶」のように、近づく/ 遠ざかるパフォーマーの姿をはっきりと/ 曖昧に見せる。私たちの行動を不断に修正する無意識下の身体記憶が、瞬時に高速かつ連続的・無作為に作り出す複雑な断面を表現した。《Voyage》では、ダーウィンの『ビーグル号航海記』のテキストが画面全面に映し出され、ビーグル号が旅した世界地図がテキストに重ね合わされる。画面下部の垂直のラインで表示された部分は未知の領域を示し、中央の水平ラインより上部のエリアは通過した場所(既知の領域)として地図へと変換され移動していく。21 世紀の初めに様々な旅を描き「未来の子供たちへ」という観点のもとに制作された。
パフォーマー:石橋健次郎、大内聖子、川口隆夫、砂山典子、高嶺格、田中真由美、平井優子、藤原マンナ、前田英一、薮内美佐子
古橋悌二《LOVERS》
1994/2001 (second edition) 国立国際美術館所蔵
インスタレーション《LOVERS》は、エイズによる感染症のため1995 年に35 歳で急逝した古橋悌二の遺作であり、パフォーマンス《S/N》と同時期に制作され、古橋にとってコインの表裏のような存在であった。当時ダムタイプの中心メンバーであった古橋にキヤノンアートラボがソロ作品の制作を提案、約1 年の制作期間後、1994 年にアートラボ企画展として東京で公開された。このエディション No.1 は世界各地に巡回後、ニューヨーク近代美術館に収蔵。エディションNo.2 はせんだいメディアテーク開館記念展のため2001 年に制作、同様に世界中で公開後、2016 年度に国立国際美術館に収蔵された。
※2020年1月19日までの展示となります。
《TRACE/REACT II》2020 ※2020年1月21日からの新作インスタレーション展示となります。
四方の壁に投影されている言葉は、相互の関係性によって位置が決定されている。鏡面の床は《Trace-1》、《Trace-16》と同様に、パフォーマンス《Voyage》(2002-2009)の舞台で使用されていたものであり、重力からの解放を思わせる空間がそこに出現している。
クリエイション・メンバー
高谷史郎、白木 良、古舘 健、濱 哲史、原 摩利彦、高谷桜子
基本情報
- 会期
2019年11月16 日(土)-2020年2月16日(日)
- 休館日
月曜日(2020年1月13 日は開館)、2019 年12月28日-2020年1月1日、1 月14 日
- 開館時間
10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
- 観覧料
一般1,400 円(1,120円)/ 大学生・専門学校生・65 歳以上1,000 円(800円)/中高生500 円(400円)/ 小学生以下無料
※( )内は20 名様以上の団体料金
※本展のチケットでMOTコレクションもご覧いただけます。
※小学生以下のお客様は保護者の同伴が必要です。
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、その付添いの方(2名まで)は無料になります。
※第3水曜日(シルバーデー)は65歳以上の方は年齢を証明できるものを提示していただくと無料になります。
※家族ふれあいの日(毎月第3土曜日と翌日曜日)は、18歳未満の子を同伴する都内在住の方2名まで半額になります。(保護者の方は都内在住を証明できるものを提示)
※本展と同時開催の企画展(「MOTアニュアル2019」展、「ミナ ペルホネン」展)とのセット券もあります。- 会場
東京都現代美術館 企画展示室 1 F
- 主催
公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館、日本経済新聞社
- 助成
文化庁・令和元年度文化庁優れた現代美術の国際発信促進事業
- 特別協力
ポンピドゥー・センター・メッス、ソニーPCL株式会社|4K VIEWING
- 協力
ダムタイプオフィス、国立国際美術館