日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション

高橋龍太郎コレクションは、現在まで3500点を超え、質・量ともに日本の現代美術の最も重要な蓄積として知られています。本展は、1946年生まれのひとりのコレクターの目が捉えた現代日本の姿を、時代に対する批評精神あふれる作家たちの代表作とともに辿ります。

  • 村上 隆《ズザザザザザ》1994年 H.150×W.170×D.7.5 cm
    © 1994 Takashi Murakami/ Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

  • 奈良美智《Untitled》1999年、H.240×W.276 cm
    © NARA Yoshitomo, courtesy of Yoshitomo Nara Foundation

本展が手がかりとするのは、戦後世代のひとつの顔としての高橋龍太郎の視点です。団塊の世代の始まりとして育った彼は、全共闘運動に参加し、文化と政治が交差する東京の60年代の空気を色濃く吸い込んだのち、精神科医としてデイケアをはじめとする地域医療の推進に尽力します。その活動が軌道に乗った1990年代半ばより日本の現代美術のコレクションを開始し、現在に至るまで作品を収集してきた高橋は、現代美術の動向を受け手として内側から観察し、表現者とは異なるかたちでその重要な部分を体現してきた存在といえるでしょう。本展では、高橋龍太郎コレクションの代名詞ともいえる1990年代から2000年代にかけての日本の自画像のような作品群だけでなく、東日本大震災以降に生まれた新たなコレクションの流れを、時代の感覚の変化を映し出したものとしても紹介します。

高橋龍太郎コレクションの形成は、1995年に開館した東京都現代美術館の活動期と重なっています。東京という都市を拠点に形成されたこの二つのコレクションは、互いに補完関係にあるといえるでしょう。一方それは、バブル崩壊後の日本の、いわゆる「失われた30年」とも重なっています。停滞する日本社会に抗うように生み出されたこれらの作品を、高橋は「若いアーティストたちの叫び、生きた証」と呼びます。本展は、東京都現代美術館がこれまで体現してきた美術史の流れにひとつの「私観」を導入しつつ、批評精神にあふれる日本の現代美術の重要作品を総覧する、貴重な機会となるはずです。

出品作家

里見勝蔵|草間彌生|篠原有司男|羽永光利|宇野亞喜良|中村錦平|司 修|横尾忠則|赤瀬川原平|森山大道|荒木経惟|合田佐和子|立石大河亞|山口はるみ|菅 木志雄|空山 基|西村陽平|東恩納裕一|舟越 桂|森村泰昌|大竹伸朗|岡﨑乾二郎|O JUN|小林正人|前本彰子|根本 敬|奈良美智|柳 幸典|鴻池朋子|太郎千恵藏|村上 隆|村瀬恭子|∈Y∋|会田 誠|大岩オスカール|小沢 剛|ヤノベケンジ|天明屋 尚|千葉和成|西尾康之|やなぎみわ|小出ナオキ|加藤 泉|川島秀明|Mr.|山口 晃|岡田裕子|町田久美|石田尚志|小谷元彦|風間サチコ|塩田千春|蜷川実花|池田 学|三瀬夏之介|宮永愛子|華雪|加藤美佳|竹村 京|束芋|名和晃平|玉本奈々|国松希根太|竹川宣彰|できやよい|今井俊介|金氏徹平|工藤麻紀子|鈴木ヒラク|今津 景|小西紀行|小橋陽介|志賀理江子|千葉正也|毛利悠子|青木美歌|桑田卓郎|梅津庸一|大山エンリコイサム|坂本夏子|BABU|村山悟郎|森 靖|松井えり菜|松下 徹|やんツー|青木 豊|梅沢和木|佐藤 允|谷保玲奈|DIEGO|弓指寛治|近藤亜樹|庄司朝美|水戸部七絵|ナイル・ケティング|川内理香子|涌井智仁|ob|藤倉麻子|村上 早|BIEN|石毛健太|名もなき実昌|土取郁香|山田康平|友沢こたお|山中雪乃|Chim↑Pom from Smappa!GroupSIDE CORE / EVERYDAY HOLIDAY SQUADKOMAKUS|中原 實*|久保 守*|八谷和彦*
*は東京都現代美術館蔵)

みどころ

■伝説の作家から最新の若手まで、総勢115組の作品による、日本の戦後現代美術史の全貌。
日本の現代美術を中心とするコレクションとしては世界最大級の高橋龍太郎コレクション。本展は、その3500点あまりにのぼる巨大なコレクションから選りすぐった作品で総覧する、日本の現代美術史の入門編でもあり決定版ともいえる展覧会です。個人が収集するスケールを軽く凌駕するダイナミックな作品群で、東京都現代美術館の展示室を2フロアにわたり埋め尽くします。

草間彌生《かぼちゃ》1990年、H.130×W.162 cm © YAYOI KUSAMA
※画像転載禁止

■日本の現代美術の最重要コレクターが選んだ、魂のコレクションの集大成。
特に1990年代以降の日本の現代美術の代表的な作品を多数含む高橋龍太郎コレクションの展覧会は、2008年の「ネオテニー・ジャパン」(鹿児島県霧島アートの森ほか)以来、国内外の美術館で何度も開催されてきました。本展は、初期から東日本大震災を経て現在に至るコレクションの変化を、ひとりのコレクターの「私観」として辿る、その集大成といえるものになります。

会田 誠《紐育空爆之図(にゅうようくくうばくのず) (戦争画RETURNS)》1996年、H.174×W.382 cm 零戦CG制作:松橋睦生
Ⓒ AIDA Makoto, Courtesy of Mizuma Art Gallery 撮影:宮島径

展示構成

1. 胎内記憶
1946年、敗戦の翌年、日本国憲法が制定されたのと同じ年に、本展覧会の「眼差し」の持ち主である高橋龍太郎は生まれました。本章では、ここから彼の収集が本格的に始まる1990年代半ばまでの、いわゆる「戦後」50年間の文化状況をコレクションの「胎内記憶」として、高橋がのちにこの時代の思い出を懐古するように収集した、若き日に影響を受けた作家たちの作品から辿ります。

2. 戦後の終わりと始まり
高橋龍太郎コレクションは、日本の「戦後」が終わり、現在まで続く低成長時代の始まりでもあると言える1990年代半ばに本格的に始まります。この時期、グローバル化していく現代美術の流れの中で、日本の文化や社会に対する鋭い批評性を持った多くの作家たちがデビューしています。彼らの作品は、1960年代末の異議申し立ての時代に芸術への憧れを育てた高橋を大いに刺激しました。本章では、コレクションを代表する作品の多くが含まれる、日本の戦後の自画像というべき作品群を紹介します。

  • 池田 学《興亡史》2006年、H.200×W.200 cm © IKEDA Manabu, Courtesy of Mizuma Art Gallery 撮影:堀内カラー

3. 新しい人類たち
高橋龍太郎コレクションの深化を紹介する本章では、その全体を貫く最も重要なテーマとして、人間を描いた作品に焦点を当てます。芸術を通して人間の諸相に触れ、その創造性の根源を探りたいという欲求は、精神科医でもある高橋のコレクションの深層に流れ続けています。コレクションのトレードマークといえる有名作品から、最新の若手の作品までを紹介します。

  • 森 靖《Jamboree - EP》2014年、H.385×W.406×D.365 cm
    © Osamu Mori, in courtesy of PARCEL 撮影:表 恒匡

  • 塩田千春《ZUSTAND DES SEINS(存在の状態)-ウェディングドレス》2008年 H.130×W.100×D.80 cm
    © JASPAR, Tokyo, 2024 and Chiharu Shiota Courtesy of Kenji Taki Gallery Photo: Tetsuo Ito

  • 加藤 泉《無題》2004年 H.205×W.56×D.52 cm
    ©︎ 2004 Izumi Kato Courtesy of the artist Photo: Yusuke Sato

4. 崩壊と再生
2011年の東日本大震災と福島第一原発の事故は、東北地方にルーツを持つ高橋に大きな感覚の変化をもたらすことになりました。本章では、原発事故の後の日本社会に対する風刺や、震災後の作家たちの最初の一歩など、この一連の出来事から生み出された表現を紹介します。生命の再生を主題とする作品が並ぶ、アトリウムの吹き抜け空間は、本展のひとつのハイライトです。

  • 小谷元彦《サーフ・エンジェル(仮設のモニュメント2)》
    2022年H.560×W.423×D.376 cm
    © ODANI Motohiko Courtesy of ANOMALY Photo: Hidehiko Omata

  • 青木美歌《Her songs are floating》2007年、H.170×W.380×D.150 cm
    北海道立近代美術館30周年記念展示「Born in HOKKAIDO」(2007年) 展示風景 撮影:小牧寿里

5.「私」の再定義
東日本大震災以降、強い主張にリアリティを感じなくなったという高橋のコレクションには、その主体である「私」の存在を問い直すような作品が目立つようになっていきます。何かが生成される過程や、不完全なものや未完成の状態を示すもの、あるいは自分の外にある現象や環境に、そのあらわれをゆだねるようなものなどが多くみられるようになります。本章では、コレクションのなかからこれらの新しい感覚を印づける作品を、絵画やインスタレーションから陶芸まで、多彩なメディアを通して紹介します。

6. 路上に還る
近年彼を惹きつけているのは、路上──ストリートから世界をまなざし、制作する作家たちです。かつて学生運動に身を投じた高橋にとって、これらの作品との出会いは、前衛芸術の記憶とともに、再び路上に還るような経験だと言えるかもしれません。若いアーティストたちの最新の動向を取り込みながら日々拡大する、高橋龍太郎コレクションの現在を紹介します。

  • 鈴木ヒラク《道路(網膜)》2013年 H.240×W.600×D.9.7 cm
    「高橋コレクション展 マインドフルネス!」展示風景(2013年、鹿児島県霧島アートの森)
    Photo: Mie Morimoto

  • SIDE CORE / EVERYDAY HOLIDAY SQUAD《rode work tokyo_ spiral junction》2022年 H.199×W.305×D.305 cm
    Photo: Natsuko Fukushima, Tokyo Art Beat

  • 藤倉麻子《水道人ービーチマーク》2023年
    左)H.220×W.63×D.75 cm/右)H.136×W.45×D.15 cm
    ©︎ Asako Fujikura, Courtesy of the artist and WAITINGROOM Photo: Shintaro Yamanaka (Qsyum!)

  • 金氏徹平《White Discharge(建物のようにつみあげたもの#21)》2012年 H.168×W.84×D.55 cm Photo: Shigeo Muto

高橋龍太郎コレクションについて

精神科医、高橋龍太郎(1946- )1997年から本格的に始めた、最大級の日本の現代美術コレクション。草間彌生、合田佐和子を出発点として、特に1990年代以降の重要作家の初期作品・代表作を数多く有する。これまで「ネオテニー・ジャパン 高橋コレクション」(2008-2010 鹿児島県霧島アートの森、上野の森美術館ほか)、「高橋コレクション展マインドフルネス!」(2013-2014 名古屋市美術館ほか)、「高橋コレクション展 ミラー・ニューロン」(2015 東京オペラシティアートギャラリー)など国内外26の公立・私立美術館でコレクション展が開催されてきた。2020年、現代アートの振興、普及への多大な貢献を認められ、令和2年度文化庁長官表彰を受賞。その総数は3500点をゆうに超え、現在もなお若手作家の最新動向を中心に拡大中である。

基本情報

会期

2024年8月3日(土)~ 11月10日(日)

開館時間

10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
*8月9日、16日、23日、30日の金曜日は21:00まで開館

休館日

月曜日(8/129/169/2310/1411/4は開館)、8/139/17、9/24、10/1511/5

会場

東京都現代美術館 企画展示室 1F/B2F

観覧料

一般2,100円(1,680円)/ 大学生・専門学校生・65 歳以上1,350円(1,080円)/ 中高生840円(670円)/小学生以下無料

※(  ) 内は20名様以上の団体料金
※本展チケットで「MOTコレクション」もご覧いただけます。
※小学生以下のお客様は保護者の同伴が必要です。
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、その付添いの方(2名まで)は無料になります。
※ 毎月第3水曜(シルバーデー)は、65歳以上の方は無料です。(チケットカウンターで年齢を証明できるものを提示)
※家族ふれあいの日(毎月第3土曜と翌日曜)は、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住を証明できるものを提示/2名まで)の観覧料が半額になります。

サマーナイトミュージアム2024
8月9日・16日・23日・30日の金曜日は17:00以降のご入場で、観覧料が2割引、学生は無料です。(要証明)
学生無料デー Supported by Bloomberg
9月7日(土)・ 8日(日)の2日間、中高生・専門学校生・大学生は無料です。(チケットカウンターで学生証を提示)

主催

公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館

特別協力

高橋龍太郎コレクション

協力

医療法人社団こころの会

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