MOTアニュアル2010:装飾

展覧会概要

「装飾」は色彩や形態と同様に、重要な造形要素であるばかりでなく、しばしば物質性を超えたひとつの精神性を象徴、表現するものです。縄文土器や装飾古墳の幾何学文様、バロックやロココの建築にみられる装飾は、単に時代の美意識が表現されているだけではなく、そのなかには空間や時間、自己の存在を問うひとつの世界観を見いだすことができます。同じように、現代のタトゥーや「ゴス」と呼ばれるファッション、あるいはより身近なデコ電などの装飾、装身行為には一種の同時代的な精神性が表現されていると言えるかもしれません。
東京都現代美術館では、時代と結びついたテーマによる同時代の若手アーティストを紹介する展覧会「MOTアニュアル」を1999年より開催しています。10回目を迎えた今年は「装飾」をテーマとしました。装飾という造形形式が本来持っているエモーショナルな訴求力を探求する10名の精鋭たちが、繊細、あるいはダイナミックに1200㎡の空間を満たします。

展覧会の見どころ

「装飾」に満たされた展示空間が出現
「装飾」をテーマとした今年のMOTアニュアルでは、ひと味違った現代美術の新しい魅力を紹介。膨大な時間をかけた、緻密かつ壮大な作品が並びます。200kgの塩によるインスタレーション(山本基)、6.3×27mのウォールペインティング(黒田潔)、幅3.5m×高さ6.5mを超える切り絵作品(塩保朋子)、総重量約300kgの陶製レリーフ(青木克世)、幅6mの油彩(水田寛)など、いずれも東京都現代美術館が持つ国内屈指の空間によって実現されるものです。

ジャンルを超えた同時代の造形言語を紹介
装飾的表現の傾向が顕著なグラフィティやグラフィック・デザインを代表する、イラストレーターの黒田潔。科学と芸術の接点を探る動きのなかから、数学的な配列を応用した文様を作り出す建築家/デザイナーの野老朝雄。工芸というカテゴリーを超えて、現代美術として注目される陶の青木克世など、これまでの既存の現代美術の枠にとらわれないアーティストたちが参加します。
 
「装飾」の意味を浮き彫りにする関連プログラム
ケルト美術の研究から、世界各地の装飾を採集し装飾による新しい人類史を組み立てる、鶴岡真弓氏(多摩美術大学教授)の講演会をはじめ、440年間使われ続けたメルカトル図法に替わる新しい地図図法で注目される鳴川肇氏などの、多彩なゲストを迎えたアーティストトークを開催いたします。(詳細は「関連イベント」をご覧ください。)

  • 青木克世 《予知夢Ⅸ》 2009年 個人蔵(台北) Courtesy of Rontogenwerke

  • 小川敦生 《cutter knife skating》 2009年 石鹸へのエングレーヴィング

  • 横内賢太郎 《book-tear》 2008年 染料、メディウム、サテン・カンヴァス 東京都現代美術館蔵

  • 塩保朋子 《Cutting Insights》 2008年 紙 高橋コレクション Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE  撮影:木奥惠三

  • 野老朝雄 菅野美術館(宮城県塩竃市)における「野老朝雄展」展示風景 2007年

  • 黒田潔 《ONIGAMI》 2008年 アクリルガッシュ ナム・ジュン・パイク・アートセンター(韓国京畿道)「NOW JUMP展」におけるウォールペインティング

  • 水田寛 《グレーの団地》 2009年 油彩・カンヴァス 作家蔵 Courtesy of ARTCOURT Gallery

  • 森淳一 《minawa》 2008年 木 Courtesy of void+

  • 山本基 《迷宮》 2006年 塩 チャールストン大学付属図書館(アメリカ合衆国サウスカロライナ州)におけるインスタレーション

  • 松本尚 《Baby Blues the Blues》 2007年 油彩・カンヴァス アートスペース虹蔵 撮影:シュヴァーブ・トム


展覧会情報

展覧会名
MOTアニュアル2010:装飾
会期

2010年2月6日(土)〜2010年4月11日(日)
休館日
月曜日(ただし、3/22は開館、3/23休館)
開館時間
10:00〜18:00(入場は閉館の30分前まで)
会場
企画展示室 1階
観覧料
一般 1,000円(800円)/ 学生・65歳以上 800円(640円)/ 中高生 500円(400円) / 小学生以下 無料
<*( )内は20名様以上の団体料金 
*本展チケットで「MOTコレクション」もご覧いただけます。
同時開催「「サイバーアーツジャパン」展」との共通チケット
一般1,500円/ 大学生・65歳以上1,200円/ 中高生750円
カタログ:注目の写真家小山泰介氏をフィーチャーした、四種類の表紙が選べるビジュアルカタログ。テキスト鶴岡真弓・関昭郎、デザイン志賀良和。B5版変形、128ページ。2010年3月中旬刊行予定。価格未定。

主催
財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館
協力
玉の肌石鹸株式会社

同時開催:
「文化庁メディア芸術祭協賛事業 サイバーアーツジャパン-アルスエレクトロニカの30年」2010年2月2日(火)~3月22日(月・振替休日)
「MOTコレクション」 2010年1月26日(火)~4月11日(日)
「井上雄彦 エントランス・スペース・プロジェクト」 開催中~2010年6月20日(日)



関連イベント

クロージングイベント「海に還る」

ご好評をいただいた展覧会「MOTアニュアル2010:装飾」も4月11日をもって、終了いたします。この展覧会には、黒田潔のウォールペインティング《森の目》と山本基のインスタレーション《迷宮》の2点がそれぞれ10日間と18日間にわたって展示室で制作されましたが、これらは展覧会の終了後に撤去されます。
このたび展覧会のクロージングとして、山本基《迷宮》の塩を「海に還る」プロジェクトを行うことにいたしました。このプロジェクトは、山本基が近年の制作で行っているもので、作品の撤去に立ち会った観客たちがそれぞれ塩を持ち帰り、塩を海に戻していただきます。人々の心にさまざまな印象を与えてきた200キロの塩を持ち帰り、循環させるこのプロジェクトです。作品にあわせた演奏も行なわれますので、是非、ご参加ください。

日時:2010年4月11日(日) 18-19時
会場:企画展示室1階 山本基《迷宮》作品前
出演:よしうらけんじ(パーカッション) 類家心平(トランペット)
定員:100名(先着順)
参加費:無料
*山本基さんはいらっしゃいません。
*当日17時から企画展示室入口前で整理券を配布いたします。
*クロージングイベントでは展示はご覧になれません。「MOTアニュアル2010」展の観覧をご希望の方は、チケットをお求めの上、各自ご覧ください。(観覧は18時まで)

アーティスト・トーク:  
2010年 2月6日(土) 塩保朋子、松本尚、水田寛、山本基、横内賢太郎
2010年2月21日(日) 青木克世、森淳一
2010年3月7日(日) 小川敦生 ゲスト:山口絵美(連写作家)
2010年3月21日(日) 黒田潔 ゲスト:工藤キキ(アート・ライター)
2010年4月4日(日) 野老朝雄 ゲスト:鳴川肇(構造家・建築家) 
いずれも15時~。2月6日(土),21日(日),3月7日(日),21日(日)はホワイエ、4月4日は講堂(地下2階)。
参加費無料

関連展示:
「Taisuke Koyama: Artworks from AN10
写真家 小山泰介が本展のカタログのために撮影した展示作品の写真を展示します。
期間:2010年2月26日(金)~4月11日(日)
会場:ミュージアムショップ横/ 作品点数:10点/ 観覧無料

講演会: 
鶴岡真弓(多摩美術大学教授 / 装飾デザイン史・ケルト芸術研究)
「現代と装飾-祈りと思考のミクロコスモス」 
2010年 2月27日(土) 15時~17時 地下2階講堂 参加無料(当日先着200名)



アーティスト

青木 克世 / Katsuyo AOKI(1972年 東京都生まれ)

柔らかく溶かした陶土を積み上げるスリップ技法によるオブジェを制作し、日本における西洋文化の影響を「装飾」から見直してきた青木克世。近年は西洋の歴史的様式から離れ、スカル(頭蓋骨)などをモチーフとした、独自の装飾様式を生みだしつつあります。新作を中心としたインスタレーションです。



小川 敦生 / Atsuo OGAWA(1969年 神奈川県生まれ)

小川にとっての装飾は、時間の蓄積に等しいものです。電話をかけながら自然に生まれたという一筆書きは、単純なパターンの繰り返しでありながら、いつの間にかひとつの生命のように動きだします。



黒田 潔 / Kiyoshi KURODA(1975年 東京都生まれ)

ナム=ジュン・パイク・アートセンターの「NOW JUMP!」展(2008年)やグッドデザイン賞を受賞した「新宿サザンビートプロジェクト」(2005年)における大画面の壁画作品で、グラフィックの新しい魅力を提示した黒田潔。本展のため、2009年7月にアラスカでの取材を行いました。東京都現代美術館の高さ6mの空間に挑みます。



塩保 朋子 / Tomoko SHIOYASU(1981年 大阪府生まれ)

2008年に五島記念文化賞美術新人賞を受賞し、現在世界を巡って制作を行っている塩保朋子。切り絵による集大成の大作《Cutting Insights》(2008年)を出品します。光を効果的に使った壮大なインスタレーションは、宇宙や地球における生命の誕生を想起させます。



野老 朝雄 / Asao TOKOLO(1969年 東京都生まれ)

建築家、あるいはデザイナーとして、数学的なアプローチから無数の文様(パターン)を作り続ける野老朝雄。代表作の《トコロ柄マグネット》は、2006年に新日本様式100選にも選定されています。幾何学的な視点から自然界における形の生成原理を探る、これまでにない彫刻プロジェクトを試みます。



松本 尚 / Nao MATSUMOTO(1975年 兵庫県生まれ)

松本尚の絵画を描くプロセスは、まずイマジネーションに基づいた彫刻を作り、そしてそれを形態と色彩、装飾で結び付けて二次元化させます。本展では男女それぞれが持つ二律背反性をテーマにした連作を発表します。



水田 寛 / Hiroshi MIZUTA(1982年 大阪府生まれ)

反復するリズムのなかに永遠性を見いだしたアンリ・マティスとは対照的に、油彩の水田寛が日常の光景から見出す装飾的なリズムは一種、ノスタルジックで、同時に次の瞬間に消え去ってしまうような危うさを持っています。本展では新作のシリーズを発表します。



森 淳一 / Junichi MORI(1965年 長崎県生まれ)

空間との親和性、あるいは対立と行った彫刻の近代的な既成概念から離れ、ひたすら彫り進める行為を続けることで内なる空間を生みだしていく森淳一。近年はそれまでの大理石に代わって、柘植を使うことでより自由な表現を獲得しています。



山本 基 / Motoi YAMAMOTO(1966年 広島県生まれ)

フィリップモリスK.K.アートアワード(2002)の受賞など、塩を使ったインスタレーションで海外からいち早く注目された山本基。塩による複雑な線の組み合せによって、空間は永遠にたどり着くことのない無限の迷宮へと変容します。200kgの塩を使い、本展最大である200m2の空間に挑みます。



横内 賢太郎 / Kentaro YOKOUCHI(1979年 千葉県生まれ)

2008年にVOCA賞を受賞し、もっとも期待を集める画家横内賢太郎。鮮やかな色彩が独特な浮遊感を生みだす彼の画面のなかで、形態は溶解し、最後に残るのが装飾です。新しいアプローチからの新作シリーズを発表します。

(五十音順)

《インタビュー 制作 / 山口 絵美》

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