「MOTアニュアル2024 こうふくのしま」展関連プログラム 「おしゃべり鑑賞会(手話通訳つき)」レポート
ファシリテーター:美術と手話プロジェクト
~庄司朝美さんの作品鑑賞~
展示室内を自由に鑑賞し終わると、みんなで輪になって座り、おしゃべりスタート。
「作品を見て『感じたこと』、『気づいたこと』をお話ししましょう」といった案内はフリップでも示しました。
庄司さんの作品から、こどもの頃を思い出したとエピソードを話してくださった方、原爆をイメージしたという方もいらっしゃいました。
自然を感じる描写や、鳥や動物たちの描写が話題に上ると、担当学芸員から展示室に置いてある双眼鏡が紹介されました。
作家の庄司さんが設置したという双眼鏡は、この展示室のほか、館内にもう1か所用意されています。
担当学芸員は、双眼鏡で展示室の中にいる"鳥"を探してみたり、双眼鏡を通して作品を鑑賞することで、新しい発見を探してみてほしいと参加者に伝えました。
中央左から 担当学芸員、手話通訳、ファシリテーター
~清水裕貴さんの作品鑑賞~
清水さんの展示は、東京湾や中国の大連で撮影された写真や映像、資料の展示で構成されていて、本展覧会の展示室の中でも比較的暗いスペースです。
そのため、手話やフリップの内容が確認しやすいように、展示室の手前の照明が明るいスペースでその後の流れを伝えてから、清水さんの展示室へ移動しました。
展示室内に設置されたスピーカーからは、架空の貝の一族の物語を朗読する音声と、人の話し声や雑踏、風のような音などが流れています。
スピーカーから聞こえる音はロジャーネックループ(受信機)やUDトークを利用している参加者にも伝わるように、ロジャーマイクロホン(発信機)をスピーカーに近づけて、展示室内の音が伝わる工夫をしました。

鑑賞後は最初に集合した企画展示室2階の明るいスペースに移動し、清水さんの展示についてのおしゃべりを始めました。話題になった作品をモニターに表示して、思い思いに感想を伝え合いました。
「清水さんの写真に現れている独特の模様が気になりました。」というコメントに、担当学芸員が「その模様は中国の大連の海水にネガを浸してつくられたものなんです。」と伝えると、参加者たちは驚きの表情を見せていました。大連の海でできた模様と知れたのも、担当学芸員を交えたおしゃべり鑑賞会だからこその発見でした。
また、清水さんの展示を通して大連は旧日本軍が占領していた街と改めて認識できることもあり、戦争経験者から聞いたエピソードを交えながら展示の感想を伝えてくださった方もいらっしゃいました。
~企画展示について~
おしゃべり鑑賞会の最後は、この企画展について感じたことや参加した感想を自由に伝え合う時間が持たれました。
そのなかで参加者の一人から担当学芸員に、「事前に4人の作家さんの作品をみたのですが、展覧会タイトルの『こうふくのしま』って何だろうと気になっていました。」と質問がありました。
実は展覧会タイトルについては、このおしゃべり鑑賞会の最後に担当学芸員から参加者の皆様にお伝えする予定としていた内容でした。担当学芸員は、「聞いてくださって嬉しいです。」と前置きをして、本展の最後に展示されている国吉康雄の絵画《幸福の島》を紹介しました。
「『MOTアニュアル2024 こうふくのしま』展で取り上げた4名の作家の作品は、複雑な現実をどう見るかということをテーマにしていて、およそ100年前の1924年に国吉康雄が描いた《幸福の島》と通じる部分があると感じました。
“しま(島)”という言葉は、見えないつながりを意識できる言葉にもなっています。日本は島国なので大陸と離れて海に浮かんでいるように見えるけど、実は海の深いところで大陸と地続きでつながっているように、今の日本で生きる4人の作家の作品も、100年前の《幸福の島》もつながりがあると考えられます。
また、国吉康雄の《幸福の島》は漢字表記だけれど、展覧会タイトルは、一人ひとりにとっての幸福を考えてほしいと思い”こうふくのしま”とひらがな表記にしました。」
担当学芸員からは、タイトルに込めた想いや参加者の方々へのメッセージが伝えられました。
他の参加者からも「担当学芸員から直接お話を聞けてとても良かった。今日はたくさんの方と一緒に展覧会や作品について話すことができ充実した機会になった。」と感想をいただきました。
こうして、1時間半にわたって開催したおしゃべり鑑賞会は終了しました。
鑑賞会終了後もその場に残って、互いの感想を共有しあう参加者の方々の姿が印象的でした。
最後に、終了後の参加者アンケートでも今回のプログラムや情報保障に関して貴重なご意見をいただきました。(一部抜粋)
―聞こえづらくても、見て楽しめると思っていたので美術鑑賞が好きだったのですが、最近は音を使ったインスタレーションも多いですし、取りこぼしていたものがあったのかも…ということと、皆さんと共有することで広がる豊かさがあることを知り、衝撃的でした。
―自分の感情や考え一つ一つと向き合いながら鑑賞することは非常に楽しかったです。そして、「おしゃべり鑑賞会(手話通訳つき)」では、同じ作品をみてもその捉え方や抱いた印象は人それぞれなのだと感じました。自分にはない視点を与えていただき、感謝です。特に、最後の”こうふくのしま”の解釈には非常に考えさせられました。誰かと一緒に作品鑑賞し、感想を共有することの素晴らしさを再確認できました。また開催することがありましたら、ぜひ参加させていただきたいです。
東京都現代美術館では、今後もあらゆる人が楽しめる美術館を目指して情報保障つきのプログラムを開催してまいります。今後の取り組みに引き続きご注目いただければ幸いです。(Y.A)