2024年03月21日(木)

「豊嶋康子を詩に翻訳するワークショップ」レポート

豊嶋康子展関連イベントとして、「豊嶋康子を詩に翻訳するワークショップ」が行われました。この企画はタイトルの通り、豊嶋康子の作品を短詩(五七五や五七五七七)に翻訳するというものです。ここではワークショップが企画された経緯と、当日の模様を紹介したいと思います。

当館インターンの筆者は、詩とデザインを架橋するコレクティブ「pH7」に所属しており、そのバックグラウンドを活かしてこの企画を考案しました。美術館でのワークショップに言語表現を導入するというあまり例のないアイデアは、筆者の我田引水のこじつけだけ(、、)だったわけではありません。
豊嶋作品を見始めた当初から、それらは言語表現、なかでも短詩の表現に通じる特徴を持っている、と筆者や「pH7」のメンバーは直感していました。その理由は、まず端的に、作品の形式的な操作が〈反転〉〈接続〉〈羅列〉といった日常的に馴染みの深い言語的な操作に似ているからです。そしてもう一歩踏み込んで考えれば、豊嶋が作品を制作するときに「フレーム」や「ルール」と呼びうるものを自らの思考と身体に課している、その方法論がまさに、あるルールを設定することでルールとの距離感という散文にはない次元を付与し一語一語にかかる負荷を強めるという、短詩(川柳、俳句、短歌等)の方法に共通しているからです。
以上のような気づきから、豊嶋康子が木材や絵具や銀行のシステムといったさまざまな素材に対して行っていることを、私たちとしては言語を素材にトレースしてみるという試みを企画することにしました。豊嶋作品の構造を借りることで、言語という日常的な素材の潜在性に気づくこと、あるいは反対向きに、言語表現のことを考えながら鑑賞することで、豊嶋作品の新たな側面に気づくことが、私たちのこめた期待でした。

当日の参加者は9人でした。講師は筆者と、同じく「pH7」のメンバーである片田甥夕日が務めました。

まず概要を説明し、配られたハンドアウトに載っているリストから、詩に翻訳したい豊嶋作品を二つ選んでもらいました。
その後展覧会場に移動し、選んだ作品をつぶさに観察。いきなり詩を書くということはせずに、まずは見えたもの、感じたもの、考えたこと等を言葉にしてもらい、箇条書きのようなメモにしてもらいます。みなさん非常に真剣な表情。

十分に鑑賞したら、研修室に戻って、短詩の制作を開始。メモに集めてきた言葉の切れ端を素材に、五七五や五七五七七を組み立てていきます。
どの作品を詩に翻訳したのかは、他の人には秘密です。最後にそれをクイズにするためです。クイズにするためには、作品の見た目をそのまま言葉にしたり、主題と直接的に結びつく言葉を使ったりしてはいけません。豊嶋作品と詩の距離を適度に離す必要があります。そのためのアドバイスを講師から受けつつ、参加者はそれぞれふたつの短詩を作りました。
ふだんから詩を書き慣れているわけではない方々も、「言葉の組み合わせで考えを表現する」ことにスムーズに入りこめていて、講師としては大変やりやすい時間でした。

完成した短詩のうち気に入った方を選んで大きく清書し、壁に貼り出します。ここから参加者全員でのクイズに移ります。
一篇ずつ読み、使われているモチーフや言葉の組み合わせを手掛かりに、どの豊嶋作品のことを言っているのかを考えていきました。自由に答えを出し合い、活発な議論が生まれました。参加者の方々の想像力は素晴らしく、ほとんどのクイズで正解者が現れました!最後に、講師がつくった短詩もクイズにして議論をしました。

みなさんの積極性のおかげで、9つの良作が生まれ、またコミュニケーションも実り多いものになりました。この場を借りて感謝いたします。
美術作品をなにか他の制作に翻訳してみることで、外側から眺めるだけでは見えてこない、作品内部の新たな論理や形式や構造に気づくことができるかもしれません。本ワークショップでは、制作の内側から鑑賞するという作品との関係の結び方を、提案できたのではないかと思っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。
なお、参加者が制作した詩作品は、記録集に記載し、展覧会場出口に設置しました。
記録集はこちらからご覧になれます。これを読んでいる皆さんもぜひクイズに挑戦してみてください。

(MOT2023年度インターン生 伊澤拓人)

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