2011年12月15日(木)

「ゼロ年代のベルリン」作品紹介-2(フィル・コリンズ)

「ゼロ年代のベルリン」展の出品作品から、今回はフィル・コリンズの《スタイルの意味》についてお話します。

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フィル・コリンズ《スタイルの意味》2011 Courtesy: Shady Lane Productions and Akanga Films Asia

本作品は、マレーシアのスキンヘッド・グループを題材に彼らの生活を建築や美しい音楽(Gruff Rhysの「Y Badan Bach」)とともに描き出す映像作品です。マレーシアでスキンヘッドと聞いて、この組み合わせに違和感を抱いた方もいるかと思います。そこで、まずはスキンヘッド・サブカルチャーについて簡単にご説明します。

スキンヘッドは、1960年代後半のイギリスで生まれた若者のサブカルチャーです。短く刈り込んだ頭髪に、ベンシャーマンのボタンダウンシャツやフレッドペリーのポロシャツを着て、細いリーバイスのジーンズかスタプレのパンツをサスペンダーで吊り、足元はドクターマーチンのブーツ、といったファッションがこのグループの典型で、特に労働者階級に支持されました。このグループは先行するモッズから派生し、そのスタイルはジャマイカなど西インド諸島からの移民のスタイルが参照されました。スキンヘッドというと私たちはまずネオナチを思い浮かべ、移民排斥をうたう極右のイメージが強いかと思われますが、それは70年代末以降に再び復興した際に一部が極右化したものが広がっていったものであり、オリジナルはむしろ黒人文化の影響を多分に受けたものでした。これは、60年代における階級やジェンダーの意識の変化に対するリアクションで、中産階級の台頭やヒッピー運動による男性の女性化の流れに抵抗し、伝統的な労働者階級の文化を復興しようという動きでした。彼らは強いテリトリー意識や男らしさを強調しました。

このスタイルは70年代初頭に一度廃れますが、前述のとおり70年代末にパンク・ムーブメント(とくにストリート・パンクやオイ!)の中から再び現れます。しかし、このスキンヘッドの復興はオリジナルと比べると政治色が色濃くなり、右翼と左翼に分かれていきます。そして現在、スキンヘッドのスタイルは、外国人排斥を唱えるネオナチだけに見られるものではなく、反人種差別運動を行っているS.H.A.R.P(Skinhead Against Racial Prejudice)もまた採用しています。

このイギリスの労働者階級の若者たちから生まれたサブカルチャーで、現在複数の意味をもつスタイルが、時間と空間を超えて、現代のマレーシアにおいていかなる変容を経て受容されているのか。マレー系、中国系、インド系、そして先住民族で構成される多民族国家であるマレーシアの若者にとってスキンヘッドというスタイルはどんな意味をもっているのか、コリンズの作品は見る者に問いかけます。

なお、12月23日(金・祝)にはフィル・コリンズが来日して当館にてトークをします。
ご興味がおありの方はぜひお越しください。

(本展担当学芸員 吉崎)

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フィル・コリンズ アーティスト・トーク
日 時:12月23日(祝・金)16:00-17:30 *15:30開場予定
会 場:講堂(地下2階)
参加費:無料(ただし当日有効の本展チケットが必要です)
定 員:200名(先着順)
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【参考文献】
ディック・ヘブディジ『サブカルチャー―スタイルの意味するもの』、山口淑子訳、未来社、1986年
Timothy S. Brown, “Subcultures, Pop Music and Politics: Skinheads and “Nazi Rock” in England and Germany”, Journal of Society History, Vol. 38, No. 1 (Autumn, 2004), pp. 157-178

※参考までに映画『This is England』では、1980年代のイギリスにおけるスキンヘッド・グループの姿を描いています。移民の流入と失業率の増加に直面したイギリス、ロンドン郊外の街で若者たちが右傾化していく過程が見てとることができます。
『This is England』シェーン・メドウス監督、2006年

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