2025年03月27日(木)

アーティストの1日学校訪問(青山悟さん)レポート3

アーティストの1日学校訪問

【5校目】2025年2月6日(木) 都立農業高等学校(服飾科) 高校2年生 32人

この学校では、普段から洋服などを制作している服飾科の高校2年生を対象に実施しました。事前に先生より、「衣服を作ることが社会とつながっていることや、身のまわりの社会問題にも目を向けてほしい」という思いを伺っていました。そのため、前半には青山さんの講義、後半には自分の身のまわりにある「物」について掘り下げるワークを行いました。

授業の最初は作品のコンセプトの話に。「コンセプトは立てるもの?見つけ出すもの?機能?」と青山さんの問いかけから始まりました。そこで、持参してくださった世界地図の作品を鑑賞し、作品のコンセプトを皆で考えました。この作品からは「世界旅行」「世界を拡げよう」「国境を知ろう」というコンセプトが出ました。

次に、タバコの作品のタイトルをグループごとに考えてみることに。「終わりの始まり」「けがれ」「消えないタバコ」「消火」グループごとに異なるタイトルが出てきました。

「一つのタバコから色々な想像が湧いてくる。これがコンセプトの始まり」と青山さん。パブロ・ピカソやマルセル・デュシャンの話を引き合いに、過去の常識を乗り超えて新しいものを作り出してきた作家たちのことを生徒たちへ話します。さらに、美術がいかに社会の構造や問題と関わっているかという話題に。ミシンとテキスタイルを使って制作し続ける動機、フェミニズムや人種差別などの社会問題が作品の背景にあることなどについても話していただきました。青山さんの話に生徒たちはうなずきながら真剣に耳を傾けていました。

そうした話を聞いた後は、いよいよ身のまわりの物を使ったワークへ。生徒たちにはお気に入りのファッションアイテム(洋服、アクセサリー、靴、カバン、時計など)を持ってきてもらいました。最初に青山さんが持参された古着のミリタリージャケットを見本に、どのようなワークをするのか説明します。このジャケットにまつわる情報や背景にある物語をどんどん書き出していきます。例えば、サイズ、購入した場所、購入理由、生産国、生産された時代、服の種類、前の所有者など。

それぞれが持ってきたファッションアイテムを大きな模造紙の上に置き、そのアイテムからわかることやスマホで調べた情報を書き出していきます。

手が途中で止まってしまう生徒がいると、青山さんは「こんなことも書けるんじゃない?」「これは誰からもらったの?」などと声掛けしてまわり、それぞれから言葉を引き出していきます。

完成後に、個々のファッションアイテムをもとにしたマインドマップを鑑賞しました。

「ブレスレット」
書かれた情報からブレスレットを譲ってくれた母親のことや当時の時代背景を想像できます。生産国や商品の仕様、ブランドのアンバサダーを務める芸能人の名前も。青山さんからは「使われている金属→金属アレルギー→環境問題も考えられるね」とのコメントが。

「リボンの飾り」
最近ニュースになっていた発がん性物質の話題が生徒から上がると、青山さんが「労働者とその労働環境についても考えることができるね」と、書き足してくださいました。

「ネックレス」
贈り主やこのアイテムにまつわるエピソードの他、モチーフや色に込められた意味なども書かれています。

他の生徒たちのファッションアイテムからもたくさんの情報が浮かび上がってきました。
最後に、青山さんから「何かを掘り下げて考えていく練習をしてほしい。何で?と常に考えることが大事」と生徒たちに伝えられました。

授業後に生徒たちから送られた感想をご紹介します。
「クラスに32人もいれば、自分以外の考え方もあって、芸術とかを見るのは苦手だったけど、作品の意味や目的などを自由に考えるのがとても楽しかった!!」
「普段からたくさんの疑問を持つことや物事をつなげて考えることは本当に大切なんだと思いました」
「自分のお気に入りの物を色々な目線で見ることで、沢山のつながりを見つけることができました」

作品の背景にある意味やコンセプトを皆で考え、ファッションアイテムが持つ情報から、生徒たちはたくさんの気づきを得られたのではないでしょうか。

【6校目】2025年2月17日(月) 東大和市立第一小学校 小学6年生 81人

最後の訪問校は今年度卒業の小学6年生2クラスを対象に1〜2校時と3〜4校時に分けて、実施しました。
まずは青山さんの作品をじっくり鑑賞しました。

その後、他者の存在について意識するための3つのワークへ。
1つ目には今年を表す文字を書くワーク、2つ目にはジャンピングドローイング。ジャンピングドローイングでは、力いっぱい飛んだことがわかるものや勢い余って紙が破けてしまったものも。

「破けるくらい描いた人は初めて!」と青山さんも驚いていました。

3つ目は、「平和」をテーマに2人で1本の筆で絵を描くワーク。作業に取りかかる前に、青山さんから「自分のやりたいことを曲げないで表現することも、時に相手に委ねることも大事」と伝えられました。
児童たちの作業する様子を見ながら、青山さんは途中で集中力が切れたり、手が止まってしまったりしたペア同士を急遽チェンジ!ペアの組み合わせが変わることで、雰囲気がガラッと変化していく絵もあります。
会話をしないというルールがあるため、ジェスチャーや目配せで協力し合っている子たちもいました。

両手を使って2本の筆で描く強者ペアも!

完成した作品をご紹介します。

「境界線があいまい」
色同士の境界のところには輪郭線がなくても、それぞれの色がきれいに分かれて存在しています。

「爆弾はダメ」
黒くて丸い爆弾に大きく赤で×が書かれています。

「人間と生き物が戯れている」
このペアは2つ目のワークで同じ文字を思い浮かべて書いており、息もピッタリでした。

最後に、青山さんからの「平和な世界で暮らしたい人?」という質問には「そりゃそうでしょ!」とすぐさま発言する子もいれば、迷いなく手を挙げる子もたくさんいました。

青山さんの声掛けや急遽取り入れたペアの交替によって、児童たちが最後まで集中して取り組んでいたことが印象的でした。


今回の学校訪問では、児童生徒の皆さんの様子や先生方の希望を聞き、青山さんが一校一校、柔軟に授業を組み立ててくださいました。刺繍作品づくりやワークを体験することで、皆、自由な発想で伸び伸びと授業に臨んでいました。
作品をつくる時は「自覚を持つこと、作品や物の背景を考えることが大事」だと、青山さんが話していたことが印象に残っています。毎回児童生徒たちと真剣に向き合っていたからこそ、最初は恥ずかしがっていた子も一生懸命に取り組んでいました。
アーティストや現代美術との出会いをとおして、彼らが他者の存在や世界で起こっていること、社会の問題について、目を向け、じっくり考える機会になったと思います。S.O

教育普及ブログ