2025年02月26日(水)

ワークショップ2024「空間的美術鑑賞のススメ 〜MOT図解をつくろう〜」

ワークショップ

9月28日(土)、29日(日)の2日間、画家として活動されている塩谷歩波さんを講師にお迎えし、ワークショップ「空間的美術鑑賞のススメ 〜MOT図解をつくろう〜」を実施しました。1日目は中学生以上、2日目は小学生と保護者の方々が参加されました。

会場となる東京都現代美術館は、ユニークな建築空間によってパブリックスペースも充実しています。そうした場所をいくつか巡りながら、自らの様々な感覚を澄まして建築空間自体を「鑑賞」し、味わうことを試みたプログラムです。

  • 塩谷歩波氏

はじめに、塩谷さんから自己紹介がありました。塩谷さんは、アイソメトリックと呼ばれる建築図法を用いて建物の図解を描いています。これまでに描いた作品を画像で見せながら、描く際の工夫も教えてくださいました。

「その場所を忠実に描くだけでなく、良かったと思う部分を演出して描くということもやっています。照明の明るさを実際よりもメリハリをつけて表現したり、そこにいる人物の数や動きなども、時に想像を織り交ぜて描いています。」

さらに、図解を描くようになった経緯や、図解を描く工程についてのお話もありました。図解作品に取り組む際には、実際にその場所に足を運び、観察し、感覚的な要素も様々に記録する、という工程を踏むそうです。そこで、その流れを体験するために、屋外へと場所を移しました。

まずは、美術館の屋外彫刻作品も展示されている公園口広場で感覚をひらく準備です。その場所にある彫刻作品の鑑賞を通して、観察すること、想像力を使うことを体感します。

慣れてきたら、視覚以外の感覚を使うことにも意識を向け、その場所の音や光、香り、気温などの気付きも参加者全員で対話しながら共有していきます。

少しずつ感覚がひらかれはじめたところで、場所を変え「水と石のプロムナード」に訪れました。ここでは塩谷さんがトレースしてくださった平面図(白地図)を手に、気付いたこと、感じたことを各自でメモしていきます。

次に館内へ戻り、長さ140メートルあるエントランスの一部分(コレクション展側)で同様の活動を行います。要領が掴めてきたのか、参加者の皆さんは一目散に気になる場所へと向かい、各々の発見を記録していました。

平面図に多くの気付きが記録されたところで、講堂に戻ります。ここからは、自らの気付きを「MOT図解」として表現していく時間です。

塩谷さんの図解作品は建築内部を詳細に描いているものですが、今回制作する「MOT図解」はひと味違うものを目指しました。空間の中、感覚で捉えた記憶を残すために、様々な素材を切り貼りして質感を再現したり、空気感を色に置き換えて塗ることで表現したり、オノマトペなどの言葉で書き表したり…。必ずしも描画することには拘らず、参加者自身の発想で表現していきます。

仕上がった「MOT図解」は十人十色!同じ時間を同じ場所で過ごしていたのに、感じたことや発見はもちろん、その表現の方法も多種多様です。

  • エントランスのV字の支えが印象的。全体的に薄暗いが、光っているところは広々とした印象を持った。
  • 窓のドットや丸みのあるオブジェなど、丸が印象的だった。エントランスを歩いていると宙に浮いている感じがしたので、その感覚を誇張して雲を描いた。
  • ガラスの外側は青色、内側はオレンジの印象を持ち、その違いがきれいだと感じた。企画展の入り口、エスカレーター付近は光っていてワクワク感があった。
  • エントランスの床と外の床が繋がっている点が印象的。館内の椅子に座って公園側を見ると、外を歩いている人と自分の目線が合い、いいなと感じた。
  • 床のザラザラした質感をシールで、人を棒人間、マスキングテープで表現した。

全員で鑑賞し合っていくと、お互いの表現や工夫も知ることができました。ここでワークショップは終了かと思いきや、最後に塩谷さんからサプライズが!この日のために、エントランス部分の図解を描いてくださっていました。


参加者の皆さん同様、塩谷さんも当館の空間の中で様々な発見があったようです。「今日のいろいろな活動を通して、場所の見え方が変わったりしたと思います。普段過ごしている身近な空間であってもアートになり得る、ということを知っていただけたら嬉しいです。」とのコメントがあり、ワークショップは終了となりました。


終了後のアンケートには、参加者の皆さんから以下のような感想が寄せられました。(抜粋)

  • 何度も訪れている現代美術ですが、美術館の空間に着目してのワークで新たな発見が沢山ありとても楽しかったです。
  • 他の参加者の方の目線が本当に面白かった。
  • いつもいる空間でも、新たな気持ちで感じ入れば、別世界になり良い刺激になるなと思いました。

音、光、風、温度、触感、匂い、居心地…。日頃から何となく感じ取ってはいるものの、見過ごしたり、取りこぼしているものも実は多くあるのかもしれません。私たちの感覚が触発されるものは身の回りにあふれています。今回の経験が、日々の景色にも潜む彩りに気付くためのきっかけとなれば嬉しいです。また、美術館もそうした彩りある場所の一つとして、皆さんにとって親しみある場所になれたらと思います。(M.A


活動をまとめた記録冊子は下記リンクよりご覧いただくことができます。(※禁無断複製・転載)
※記録冊子は こちら


講師:塩谷歩波(画家)
記録撮影:森田直樹(Studio Jugaad
冊子デザイン:やまねりょうこ

教育普及ブログ