2025年01月11日(土)

見て、さわって、話して ―体験を重ねた鑑賞

ミュージアム・スクール

2024年10月31日(木)に、都立文京盲学校の生徒さんと教員の皆さん、総勢7名にご来館いただきました。

どの展覧会をみるかは事前下見に来た先生の話をもとに、生徒さんたちが相談して決定。今回は、屋外彫刻作品と「開発好明 ART IS LIVE ―ひとり民主主義へようこそ」展を鑑賞することになりました。

朝10時の開館とともに鑑賞スタート。まずは屋外彫刻作品の《発見の塔》へ向かいました。高さが6m以上もある本作は、様々なかたちの鋼の板を組み合わせて作られています。

作品に近づいて、作品の手触りや形、板の厚みなどを確認していきます。カーブを描いた大きな鋼の板は、朝10時の柔らかな陽射しに照らされ、触る場所によっては人肌よりもあたたかく感じます。

「複数ある階段は、選ぶ場所によって行きつく先が異なります」という美術館スタッフの説明を受けて、それぞれ好きなところからのぼっていきます。幅が狭かったり、変形したステップを、生徒さんたちは助け合いながらのぼっていました。

大きな作品を見たあとは、小さな作品に注目。同じ空間にある高田安規子・政子による《修復/東京都現代美術館(入口壁面)》作品を鑑賞しました。美術館スタッフから「壁面のどこかに“修復”された場所があるので探してみてください」との声掛けを受けて、優しく触れながら作品を探していきます。

発見!! 壁面と同じ素材ながらも、まるで小人が直したかのようなモザイク状に“修復”された作品は、意外につるりとしていて優しい手触りでした。

続いて中庭にある鈴木昭男による《道草のすすめ―「点 音(おとだて)」and “no zo mi”》へと移動します。

耳のようにも足跡のようにも見えるプレートの上に立ち、そこから広がる風景とともに聞こえてくる音を味わう、という作品です。中庭の《点 音》作品では、よく耳を澄ますと、鈴木さんによって奏でられたオリジナルの音が聞こえてきます。順番にプレートに立って、耳を傾けます。

この空間には、様々な“丸”が印象的な壁面が広がっています。言葉での説明よりも、実際に触れて確認しようと近づいてみると、丸い穴が開いていたり、触るとカタカタ音がする半立体のパーツがついていたりすることがわかります。遠くから見ているだけでは気づきませんが、丸い穴の中には、手が入る場所も。そのことに気づいた生徒さんが、穴が開いた場所に耳を当てています。「いい音がする!」との声を受けて、みんなで試してみると、まるでスピーカーの中にいるかのような深い響きを味わうことができました。

これには、この場所で何度も作品鑑賞をしていた美術館スタッフもびっくり!《点 音》作品の新たな魅力発見となりました。
屋外の作品を楽しんだら、いよいよ「開発好明 ART IS LIVE ―ひとり民主主義へようこそ」展へ。

「開発好明」展では、視覚的な鑑賞に留まらず、音に耳を傾けたり、触れたり、参加できたりと様々な体験ができる作品が数多く展示されています。
入り口付近にあるブロンズで作られた開発さんの手と握手するところからスタート。

壁面一体を埋め尽くす《ふせんドローイング》。小さな付箋の一つひとつに不思議な絵が描かれているので、気になる作品は自身のスマホで撮影し、画面を拡大してじっくり見ていきます。
「あ、首の長~い人の顔みたい!」などと、友達同士で気になる作品について語り合う様子もありました。

次に、《投げ彫刻》へ。来館者が発泡スチロールのパーツを投げることによって、彫刻作品が出来上がっていくという作品です。入場時に配られるウェルカムバッグの中には、誰一人として同じ形状がない発砲スチロールが入っています。それをなるべく遠くをめがけて投げたり、壁にバウンドして音を出してみたりと、それぞれに狙いをもって投げ込んでいました。

投函した手紙が、だいたい1年後に届くという《未来郵便局 東京都現代美術館支局》では、事前に点字でメッセージを書いてきてくれた生徒さんも。仕上げにスタンプを押したらポストに投函!

開発好明展では、開発さんご本人が扮する“ダメパンダ”が登場し、紙製の腕時計を作ってくれるという時間があります。文京盲学校の皆さんが来場時は、ダメパンダはお休みでしたが「どうにかダメパンダの姿を伝えたい!」という先生からの熱いリクエストにお答えし、美術館スタッフが、立体イメージプリンターを使用した触図を作ることにしました。
触図の作成にあたっては、パンダのもこもこ感や白と黒のちがいをどう表すかを考えたり、大小さまざまな水玉模様のタイツの様子をどう伝えるかを悩んだりと、何度も試作を重ねながら作成を進めていきました。

「眼鏡をかけた顔の上に、パンダの顔があります。上半身はふかふかした着ぐるみのような姿ですが、足元は水玉色の派手なタイツを履いています」などの説明を聞きながら触図の凹凸に触れていきます。タイツの部分は、大小のドットをつけて表現。
視覚と手触りの両方で触図をみていきます。「わあ、かわいい!」という声も。

その後も、一人で作品と向き合ったり、参加型の作品を楽しんだり、みんなで発見や感想を話し合って作品の意味を深めていったりと、様々な体験を重ねていきました。
全体を通して約2時間の滞在となりましたが、まだまだ時間が足りない様子でした。

今回の鑑賞を通して生徒さんたちからは以下の感想が寄せられました。
・みんなでいろいろと話をしながら見れたことで、作品を深掘りできた。気持ちのヒーリングになった。
・体験型の見学で、みんなで話して推測しながら作品の見どころを発見できたことがよかった。
・作品を目で見るだけでなく、音を聴いたり、形に触ったり、作品作りに参加したりするなど、様々な楽しみ方があるということに驚いた。
・開発さんと会って話したことはありませんが、作品鑑賞を通して少し会話をしたような気分になった。開発さんが残したメッセージに私たちが返信するような感覚だった。
・作品にシールを貼ったり、発砲スチロールを投げたりするといったこともあったけど、みんなで交わした会話から新しい作品の見どころを探すことができた。
・美術館は見えていないと楽しめないというイメージがありましたが、今回たくさん音を聴いて、触って、考えて、充分楽しめました。

自分のペースを大事にしながら作品から感じ取ること、他者との視点の交換を通して作品の世界を広げること、そのような体験を行ったり来たりしながら深めた作品鑑賞となりました。(A.T)

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