2024年03月05日(火)

誰かと一緒に

ミュージアム・スクール

毎年、団体鑑賞で来館する江東区立元加賀小学校のみなさんが、今年度も美術館に来館してくださいました。

企画展「豊嶋康子 発生法―天地左右の裏表」では各自の目線で自由鑑賞を行った一方、コレクション展では学芸員やスタッフがギャラリートークを行い、コミュニケーションを取りながら鑑賞しました。
今回は、コレクション展での様子をインターン生の高橋がお伝えします。

コレクション展示室を進んで行くと、壁一面に様々な形の木の板が並んでいる作品が見えてきました。もっと近づいて作品を見てみると、木の板だけではなく、釘がたくさん打たれていることに気がつきます。さらにじっくり見てみると、釘以外の素材もあるようです。こどもたちは、木の板や、壁に打たれた釘などに興味津々。そこでまず、作品を自由に鑑賞してみることにしました。その中で、こどもたちからこんな声が聞こえてきました。

・この部分、なんだか人の目に見えてきた……
・釘で書かれた数字がある
・点字を見つけた!
・釘がマラソンしているみたい

それぞれ見つけたことや、気がついたこと、面白いと感じたことを、目を輝かせながら、その場にいた全員で共有しました。

ひととおり気がついたことなどを共有したあとに、あえて伏せていた、作品に関する“あること”を伝えました。それは、「この作品は触ることができる」ということです。この言葉を聞いたこどもたちは、「本当に触ってもいいの?!」と、驚きと嬉しさの混じったような表情に。

実際に作品に触れてみると、
・つるつるしている
・釘の高さが違う
・釘が斜めに打たれている
・まち針がある!
・こっちにはビーズもある!
など作品に触れて感じたことや気がついたことをたくさん教えてくれました。
中には、
・ビー玉を転がしたくなる
といった声も!

作品をじっくり鑑賞し、触れ、各々が感じたことを共有した後に、作品について簡単な紹介をしました。この作品は全盲の美術作家である光島貴之によって制作され、《ハンゾウモン線・清澄白河から美術館へ》というタイトルがつけられています。タイトルにあるように、この作品は、光島が清澄白河の駅から東京都現代美術館までの道中で体験したことが表現されています。感じたことや、周囲の音や匂いといった情報が作品に詰め込まれているということを意識して、もう一度作品と向き合う時間を設けると、こどもたちは改めて作品全体をじっくり見渡したり、清澄白河駅周辺の風景を想像し、味わい、確かめるように作品に触れたりしていました。

1階での鑑賞を終え、次に3階の展示室に向かいました。3階に向かう階段の途中で出会うことのできる、トミエ・オオタケ《Untitled》や、オノ・ヨーコ《インストラクション・ペインティング》も鑑賞しながら階段を上りました。

階段を上って少しあがった息を深呼吸で整えてから、いざ展示室へ。そこでこどもたちを待っていたのは大きな4枚のカンヴァスでした。壁の四方に飾られた4枚の作品は、どれも色彩豊かな大小さまざまな線が自由に飛び散っていて、展示室内はどこかのびのびとした空気感で溢れています。

この日は、こどもたちに、「4枚の作品の中から、お気に入りの1枚を選ぶ」というお題を出してみました。自分の好きな作品を選ぶために作品をじっくり鑑賞している姿や、友人同士で何か気がついたことを共有している姿が印象的でした。選んだ1枚の好きなところや、面白かったところを共有しあった中で、聞こえてきた声をご紹介します。

・色がにじんでいるところと、はっきりしているところが面白い
・線が大きく曲がっているところが蛇に見える
・カラフルで好き!
・宇宙に見える
・海や波にも見える
・文字に見える
・色が中心で重なるのが面白かった!

鮮やかな線が生み出す繊細な表現や、色のにじみ、大きな線のうねりから様々なことを感じ取った様子でした。展示室に入り、初めて作品と対面した瞬間よりも、いろいろなものが見えてきたのではないでしょうか。

一人でじっくり鑑賞するだけでなく、友人や学芸員、スタッフといった、他のだれかと一緒に鑑賞し、感想や気づきを共有することで、より楽しみながら作品と向き合っているこどもたちの姿がとても印象に残っています。作品を鑑賞して感じたことや想像したことに不正解はないので、作品との出会いを楽しみに、ぜひまた東京都現代美術館に遊びに来てくださいね!

MOT2023年度インターン生 高橋吏子)

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