アーティストの1日学校訪問(片岡純也さん&岩竹理恵さん)レポート3
【5校目】2023年2月19日(月) 東京都立のろう学校 6年生 12人
訪問5校目は、都内のろう学校です。
先生方にはこどもたちとのコミュニケーションの際の手話通訳などで、多くのご協力をいただきました。
最初の自己紹介では、こどもたちが片岡さん、岩竹さんと美術館スタッフの名前を覚えられるよう、先生が手話で名前を繰り返し確認します。また、補聴器や人工内耳を着用したこどもたちには、アーティストの二人が首から下げたロジャーのマイクを介して直接話しかけます。
バネと天秤を用いた作品鑑賞では、片岡さんが手に持ったおもちゃのバネを見たことがあるかこどもたちへ尋ねると、手話で「あるある!」と元気に答える子も。一人ずつ順番に、両掌で伸縮して形を変えるバネの動きを観察します。
本の作品でも同様に、見本の本を手にとってみて、パラパラページをめくる時の心地よさを味わいます。
《やじろぐ枝》の作品では、どんなに動かしても落ちることなく揺れながら回転する枝をこどもたちは不思議そうに見つめています。こどもたちと先生が一斉に手で仰いで風を起こすと枝がゆらゆらと回り、こどもたちから笑顔がこぼれます。
作品鑑賞をひと通り楽しんだ後は《やじろぐ枝》の制作へ。こどもたちの手が一気に動き始めます。迷わず自分の作りたい形を作っていく子、グルーガンで早々と枝に材料を付けていく子、《やじろぐ枝》の土台を高くしてみる子。自分たちで試行錯誤しながら着々と作業を進めていく様子に感心しました。
最後に、こどもたちに自分の作品のこだわったところや気に入っているところを教えてもらいました。ゴムを枝に張って蜘蛛の巣をイメージしたもの、お祭りの灯りを表したもの、桜とブランコをイメージしたものなど、思い思いに表現した作品が出来上がりました。
後日届いたこどもたちからの感想には、「身近にあるもので作れるので友達にも教えたい」「作品の発想に驚いた」「指に乗せてバランスを保つことが作品になって楽しかった」「片岡さん、岩竹さんの作品もたくさん見たい」というものがありました。
片岡さん、岩竹さんとの交流をとおして、こどもたちがのびのびと活動している姿が印象的でした。(S.O)
【6校目】2024年2月27日(火) 東京都立鹿本学園(知的障害教育部門) 小学部5年生 32人
最後の訪問校となったのは、東京都立鹿本学園です。知的障害教育部門の小学5年生を対象に実施しました。
先生との事前打合せ時に「こどもたちは、どんな人たちがやってくるかを知っておいたほうが良いので、顔写真と呼びやすいあだ名がほしい!」とのリクエストがありました。そこで考えられたのが、片岡さん⇒ぐらぐら先生、岩竹さん⇒ゆらゆら先生。“やじろぐ枝”がぐらぐら、ゆらゆら動く様子からつけられた名前です。
また、中には手先を細かく使って作業することが難しい子もおり、なるべくみんなが無理なく活動に参加できるようにしたいとの声を受けて、他校ではなかった枝先につけるための工夫も。
実施に向けて、様々な準備をした上で、当日を迎えました。
最初の作品鑑賞は、広々とした多目的ホール。クラスごとに集まってきます。
すると、先生がブロマイド状に加工してくれた写真を手にした子が! 事前に楽しみにしてくれていた様子が伝わってきます。
全員がそろったところで作品鑑賞スタート。作品を1点ずつ動かしながら、説明をしていきます。前かがみになりながら、注目して見てくれる子もいました。
ひと通り作品を見たら、今度はクラスごとに近づいて作品を観察。
左右にリズミカルに動く作品を見た子が、その動きにあわせて身体でリズムを取る様子も。それぞれの感覚で作品を味わっている様子が伝わってきます。
作品作りの説明を終えたら、それぞれのクラスに戻り、制作スタート。
上の写真は、先生方が用意してくださった、鹿本学園スペシャルバージョンの枝。2か所だけ洗濯バサミがついています。
各クラスの先生方が、こどもたちの様子を受けて制作を進めてくれます。片岡さんは教室を順番に回っていきます。
今回のワークのポイントはバランス。先生方が用意してくれたのは立派な桜の枝で、枝ぶりによっては、バランスを取るのが難しいものもあります。片岡さんが見本を示しながら、こどもたちもいざ挑戦!
枝のバランスを確認した後は、用意された素材をつけて、自分なりの作品を作っていきます。
海の漂流物の中から、気に入ったものを選び、つけていきます。それ以外の部分にはテープやカラーワイヤー、モールなどを使って装飾します。
素材をつけていくと、バランスの位置はどんどん変わっていきます。片岡さんと一緒に改めてバランス探し。バランスが取れて、作品が空気のゆらぎを受けてくるくる回ると、手をたたいて喜ぶ子もいました。
30 分ほどの制作時間となりましたが、それぞれの作品が完成。
サメをテーマに、海っぽくしたという作品。青い色が多用されています。
こちらのクラスでは、みんなの作品を前にならべて鑑賞。
「こんな風に並んでいると、波に漂流物が浮いているみたいだね」と片岡さん。
先生方にサポートいただきながら、数々の作品が完成しました。
授業終了後には「作品を早く持って帰って家族に見せたい!」という声もあったそうです。
教員からは、「児童によっては、作品作りで感性が高まった子もいれば、アーティストの作品をよく見て楽しむ子もいて、教員側も児童の探求心の深さに気付くことができました」との感想もいただきました。
アーティストの作品や考えに触れることを通じて、新たな美術の世界を体験してもらえたら幸いです。(A.T)
【各校での訪問授業を終えて】
訪問授業をとおして、アーティストとの「出会い」がこどもたちにとってかけがえのない経験になったようです。こどもたちは片岡さん、岩竹さんの想いや考えに触れ、何気ない日常にある不思議なことや面白いことに目を向けてみると、新しい視点やアイディアがたくさんあることに気づけたのではないでしょうか。
本プログラムは、こどもたちへ現代美術の魅力を届けるために、アーティスト、学校の先生、美術館スタッフ、この三者の連携が欠かせません。今後もこのような連携を大切に、現代美術の魅力を発信していきたいと思います。(S.O)