2023年09月20日(水)

障害のあるお子さんと楽しむ “美術館で音探し”ワークショップ

ワークショップ

2023年夏のワークショップは、特別支援学級・学校等に通うお子さんと、その保護者・介助者の方を対象に実施しました。(実施日時:730日(日)13301700

本ワークショップの企画・講師をつとめたのは、音楽家の片岡祐介さん。

片岡祐介氏

打楽器を使った即興演奏のプロでもあり、スピーカー製作者でもある片岡さんをお招きした今回は、音を通して美術館を楽しんでいただくことをテーマに実施しました。
「美術館で音探し ―手作りスピーカーで音を味わおう!」と題し、前半は片岡さんが開発した「純セレブスピーカー」を制作し、後半は音に注目したワークを行いました。

「純セレブスピーカー」とは、段ボールや紙製の箱をベースに、安価なパーツを組み合わせることで、高品質な音を発するという環境に配慮したスピーカーです。

当日は、多くの応募者の中から抽選で選ばれた9歳から13歳までお子さんと保護者、5組(13人)が参加しました。夏真っ盛りの暑い日でしたが、みんな元気いっぱいにやって来てくれました。

美術館スタッフからのお話の後は、片岡さんから今日やることの説明です。
「今日はこういう紙でスピーカーというものを作ります。ここにいっぱい絵の具とか用意してあるので自分の好きな色を塗ったりしてスピーカーを作ります。そして、自分の好きな音を録音して、自分の作ったスピーカーでそれを聞いてみます。」

「みんなで美術館の中を歩き回って、美術館の音探しをします。何か面白い音するな、と思ったらこちらのタブレットを使って録音します。例えば、ゴミ箱とかいい音がしそうだったら、コンコンコンとたたいてその音を録ったりして、遊びながら館内をめぐります!」

今日やることのお話を聞いた後、自己紹介を兼ねて片岡さんが即興演奏をしてくれました。

「僕は何でも楽器に見えるんです。」
箱に入った絵具やペンなどの画材をリズムを取りながらゆすったり、触ったり。さらに、壁や机をたたいたり、自分の身体を使ったりしながら即興で音を出す片岡さん。既成概念を取り払うと、何でも音を出すための道具になります。

音についてのイメージを広げたら、いよいよ制作スタート!

様々なサイズの中から、ベースとなる箱を1つ選びます。小さめの箱は2つ、大きめの場合は1つ。箱を決めたら、思い思いに描画材や素材を選んで手を動かしていきます。

ペンを使って好きな絵を描きこんだり、色紙やシールを組み合わせて貼ったり、アクリル絵具をたっぷり使って描いたりして箱を彩っていきます。
片岡さんによると、スピーカーのベースとなる箱に素材を貼り付けたり、絵具を塗ったりして装飾すると、何も手を加えていない箱よりも良い音が出るようになるのだそうです。

制作中には、突如、片岡さんが会場内にあるものを使って即興演奏する場面も。
1時間ほどの制作時間を経て箱が出来上がったら、スピーカーユニットをはめ込み、アンプにつなげます。

完成したスピーカーは、片岡さんが用意した音源につなげて一人ひとり音の出方を視聴しました。片岡さんが演奏した音楽が流れてくると、思わず身体が動き出す子も!

また、別のスピーカーの視聴では、虫の音が聞こえてきます。
「あれ?その辺に虫いる?」と片岡さん。クスリと笑う子どもたち。
音の響きが良すぎて、まるですぐ近くで虫が鳴いているかのようです。箱のサイズや装飾方法によって、一つひとつ微妙に響きが異なります。

ワークショップの後半は、音探しを行いました。
片岡さんと美術館スタッフと一緒に館内を巡りながら、その場所ならではの音に注目したり、時に建物の一部を触ったり、たたいたりして、音を録音していきました。

ミュージアムショップに面した扉の外に広がる中庭には、環境の中の音に耳を澄ませることを促す鈴木昭男さんによる「点 音(おとだて)」作品もあります。静かに耳を傾けると、鈴木昭男さんが手掛けた音源も小さく聞こえてきます。この場所ならではの音も味わいました。

その次に、この場所にある“もの”にも注目。コルクのベンチを使ったり、触るとカタカタっと音がする建物の意匠の一部に触れたりして音採取をしていきます。片岡さんは、高い壁に囲まれたこの場所で声を響かせます。その音も採取!

続いて、水と石のプロムナードへと移動。独特の響きが生まれるこの場所では、自分たちの身体を介して音を出したりしました。

音採取ができたら、最後に全員で講堂に集まり、制作したスピーカーを使って演奏会を行います。

採取した中から、スピーカーで流す音をそれぞれ選びます。

子どもたちは観客席へ。
「皆さん準備はいいですか。今日の美術館の音です。鳴らしてみましょう。」
片岡さん指揮のもと保護者の方たちが再生ボタンを押します。
聞こえてくるのは、セミや参加した子どもたちの声、美術館のゴミ箱を触っている音、何かをたたいたり、さすったりして聞こえてくる音など。その時、その場所、その人だからこそ録音できた音ばかりです。

3時間半におよぶ長時間のプログラムとなりましたが、終わってみるとあっという間! 子どもたちは集中力を切らすことなく、最後まで元気いっぱいに参加してくれました。
ワークショップの様子はこちらからご覧いただけます。




”音”をキーワードに美術館を楽しんだ今回のワークショップ。参加者一人ひとりのペースを大切にしながら、参加者みんなで音の世界を共有し、イメージを広げる一日となりました。(A.T)

写真撮影:川瀬一絵


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