2023年03月27日(月)

アーティストの1日学校訪問(潘逸舟さん)レポート3

アーティストの1日学校訪問

【5校目】2023年2月9日(木) 都立清瀬特別支援学校 中学部2年生 41人
授業タイトル:「自分の居場所を記録する」

校舎の建て替えのため、令和5年9月に新校舎への移転が予定されている都立清瀬特別支援学校では、自分が好きな場所の痕跡をフロッタージュで記録するワークを行いました。

熱気いっぱいに潘さんを迎えてくれた都立清瀬特別支援学校のみなさん。作品紹介では、潘さんが「自由の女神」に扮した映像作品に笑い声も上がります。

フロッタージュで写し取るためのポイントも伝授。組み合わせ次第で別のものに見えてきたりもします。

ブランコなどの遊具や畑、かつての卒業生たちがつくった卒業記念の塔などがある“中庭”を会場に実施。思い思いの場所を探して写し取ります。

好きな紙とクレヨンを持って、スタート!

タイルの目地がくっきりした床

ブランコの座面

  • 柔らかな芝生

  • 木の表面

潘さんと共同制作する生徒さんも。

何色かのクレヨンで色を重ねたら、軍手で画面をこすって色をぼやかすようにして表現する人も。

昭和61年に卒業記念としてつくられた《仲間たち》と題した塔には、事前に先生がハリボテ状に紙を貼り付けておいてくれました。まさに“仲間たち”と共同作業で写し取っていきます。

日陰は手がかじかむような寒さでしたが、生徒たちは集中が途切れることなく、1時間以上にわたってフロッタージュに取り組みました。

最後に多目的室に戻り、一人ずつ作品を発表しました。
写し取った場所は、床や壁、ブランコ、用務倉庫の扉、玄関入り口のマット、金網など。一枚の紙に異なる場所を重ねていったり、クレヨンの色を変えて表現していったり。遠目に見ると緑一色に見えますが、何色もの色を重ねて深い緑色を生み出した作品もありました。同じ場所を選んでいても、人それぞれに全く異なる作品が出来上がっていました。

学校の記憶や思い出は、生徒一人ひとりによって唯一無二の作品に生まれ変わりました。

完成した作品の数々は、移転前に開催される校舎のお別れセレモニーで紹介されるそうです。
各学級の先生方からは
・生徒の可能性を引き出す良い取り組みだった。生徒と一緒に作品制作してくれ、良い経験になった。
・とても分かりやすい言葉で説明してくれた。
・表現方法の多種多様さに感嘆した。
・生徒全員が実施できる内容で、色や場所を自分で選択し、個性ある作品ができあがったことに感動した。生徒の成熟度ごとに取り組める内容だった。
といった感想が寄せられました。

【6校目】2023年2月17日(金) 港区立芝小学校 小学5年生 57人
授業タイトル:「自分鏡 ―自分を見つめる鏡をつくる」

港区立芝小学校では、5年生を対象にクラス別で授業を実施しました。
教員との打合せを経て、“日常のふとした瞬間に自分を見つめるための鏡”作りに挑戦しました。

潘さんのお話では、ご自身の身体を用いて表現した映像作品などを紹介しつつ、「自分が生きて感じることをどういう方法で伝えるかが大事。まだ表に現れていないものを表に表すことが“表現”です。私は自分の身体を素材にしているので、画材がなくても表現できます」と語る潘さん。
次に、今日取り組む「自分鏡 ―自分を見つめる鏡をつくる」についての説明です。
事前打合せで潘さんと図工担当の教員、美術館スタッフが試作した作品を見せつつ、説明していきます。 “ふとした瞬間”に見るための鏡は、手に持つタイプだったり、誰かの身体に貼り付けて自分を眺めたり、部屋のどこかに置いたりと様々なシチュエーションが考えられます。

潘さんによる試作品のひとつ、頭にかぶって滝修行ができるという鏡。「付けてみたい人!」と問いかけられると、勢いよく手が挙がります。装着して頭を振ると、曖昧な自分が映し出されます。

ミラーシートを素材に、ペーパーや針金などの素材や描画材料を自由に使いながら作品作りを進めていきます。

それぞれの個性にあふれた鏡がだんだんと姿を現してきました。筆箱の中が鏡張りになっているものもあれば、マスクタイプの鏡もあります。また、すべてのページが鏡になっている本やしおりが鏡になっているものも。

潘さんが”自分の身体を使って表現している”という話を受けて、自分の身体を素材に爪を鏡にした!という子も。

鏡に描かれた顔と鏡に映る自分の顔とが一度に比較できる鏡。

眼鏡ケースの中が鏡になった作品。

背中に配した人の顔をした鏡。周りのひとたちの姿が写ります。

普段使う筆記用具も鏡に変身。

最初は悩みながら進めている様子も見受けられましたが、1時間弱の制作時間を経て、それぞれにオリジナリティいっぱいの作品が完成。何人かに作品を発表してもらいました。

レンズとモニターの両方が鏡になったカメラ。写真を撮る側も、撮られる側も鏡を見ることができるそうです。

「今回の図工が今までで一番楽しい!」との声も上がった潘さんによる訪問授業。
実施後に送られてきたこどもたちの感想には、
・潘先生の作品をみて「こういう発想があったな」「こういうものをつくってみたいな」と思うようになり、美術に興味がわいた。
・潘先生の話を聞く前は「この作品、きれいだな」と思っていたけれど、聞いてからは「この作品には、こんな意味があるのかな」と思うようになった。
・絵を描いたりするだけが美術ではないことを知った。自分で何かを表すこと全てが美術だと思った。
・芸術にはいろいろな表現方法があることを知った。
・この授業を通して、図工のことが前よりも好きになった。
などとあり、潘さんの授業を通して、表現について考える機会となったことが伝わってきました。

最後に、潘さんが寄せてくださったコメントをご紹介します。

「生まれ持ったエネルギーに向かって」
今回は小学校から高校までと様々な学校で授業を行いました。学校訪問を通じて感じたことは、表現とは生まれ持ったエネルギーであるということです。年齢がいくつになっても、誰であっても、それはなんら変わらない、誰の中にもあるエネルギーだと感じました。それは意識しなくとも、表現は常日頃それぞれの中に生まれているのかもしれません。表現は「表に現れる」と書きますが、私が美術家として表現するとき、その自らの内側にあるエネルギーが外に現れるのを「待ち続ける時間」がいつもワクワクするし、その待ち続ける時間そのものが私にとっては「制作」なのです。その待ち続ける時間の間に私という人間は何かを描いてみたり、考えたり、何かを折り曲げたり、走ってみたりと様々な行為を繰り返すのです。そして今回の学校訪問では、そんな当たり前なそれぞれの内側に存在するエネルギーを、同じ教室の中で「みんなと共有する時間」を過ごせたことがとても大切だと感じました。表現は孤独な存在でありながら、常に隣に誰かがいて、お互いに相談してみたり、一緒に悩める時間がワークショップの醍醐味でもあると感じました。ご協力くださった学校の先生方と美術館のスタッフの皆さん、本当にありがとうございました。またいつか子どもたちにお会いできる日を楽しみにしています。

潘逸舟
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先生との打合せを受けて、学校ごとにオリジナル授業が展開された今回のアーティストの一日学校訪問。
アーティストの言葉を直に聞き、表現に触れる体験は、新たな価値観を引き込み、美術の世界を広げるきっかけとなったのではないでしょうか。東京都現代美術館にもぜひ足を運んでほしいと思います!
(A.T)

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