アーティストの1日学校訪問(潘逸舟さん)レポート2
【3校目】2022年12月19日(月) 江戸川区立下鎌田西小学校 小学6年生 82人
授業タイトル:「自分と学校の記憶を記録する ~フロッタージュで自分だけの絵を作る~」
令和4年度をもって閉校となる江戸川区立下鎌田西小学校では、卒業を控えた6年生を対象に、自分が好きな学校の場所をフロッタージュで写し取るワークを行いました。
最初に潘さんから自作について写真や映像を交えてお話いただきました。「無意味なことをするのは大事なことだと思っています。世の中には決まった答え以外のことがたくさんある。美術での表現とは、わかってないことをつかみにいくイメージ。私は、自分が感じてきた社会や現実を身体を使って表現しています。例えば、絵を描いたときに、その作品が社会の中でどう生きるか?について考えるのが現代美術だと思います」と語る潘さん。こどもたちは潘さんのお話を真剣に聞き入っていました。
次に今日やることの説明です。
例えば教室の自分の机、体育館の床、校庭の片隅にある木など、6年間を過ごした学校の中で、自分が写し取りたい場所やものを記していくことを伝えます。細かい凹凸に限らず、立体的なものを写し取るためのコツも伝授。
「フロッタージュで記録すると、実際とは違うものに見えたりします。写し取るものを組み合わせたりして、自分だけの作品をつくってください」との説明を受けて制作開始!
6年生の教室や廊下、図工室、図書室、校庭など校内を自由にめぐりながら、自分が気になる場所を探します。一人でやっても良し、友達と協力しながら写し取っても良し。
用意された紙は、八つ切りサイズから模造紙まで幅広く、版画用紙や画用紙など、複数種類あります。また、描画材も鉛筆や色鉛筆、パステルなど、好きなものを選んでOK。
フロッタージュをする際には、後からどんな場所を写し取ったか確認できるように、各自のタブレットを使って写真を撮り、全員が共有できる学校のTeamsにアップします。
先生からは、「今年度でなくなってしまう学校の手触りを残してください」との声掛けも。こどもたちはそれぞれに気になった場所やものをフロッタージュで写し取っていきます。
凸凹を意識しながら校内を巡ります。目で見るだけでなく、手触りを通した観察を重ねながら制作を進めていきます。
靴の裏をフロッタージュする子も。校舎内をたくさん歩いた上履きには、たくさんの思い出や記憶が宿っていそうです。
何やら立体的なものの形を写し取っていく子たちもいます。紙の中にはサッカーボールが! 転がらないように支えながら慎重に。
一枚の紙に、複数の場所の記憶を集めたり、
校庭の落ち葉を丁寧に写し取っていく子も。
みんなで協力しながら、 校舎の壁面に設置されているモザイク画を写し取るという大作に挑戦するグループもありました。
さらに、フロッタージュしたものを切り抜いて、恐竜を作るグループも。
思い思いに写し取られた作品は、 体育館の床に広げて、みんなで鑑賞会を行いました。
最後に、「今日の授業が楽しかった人?」との潘さんの問いかけに、勢いよく手が挙がります。
こどもたちからは、「今回、初めてアートな体験ができて楽しかった!」「難しかったけど、なんか面白かった」「自分の成長に気づけて良かった」などの感想が述べられました。
潘さんから「今はスマホやタブレットで簡単に撮影できるけど、どれだけ人間が進化しても、目と手がある限り、描くことはなくならないので、これからも描くことを続けてください」とのメッセージが送られました。
今回制作した作品は、6年生の教室の廊下に掲示してみんなが見られるようにしたそうです。
【4校目】2023年1月23日(月) 立川市立第七小学校 小学6年生 22人
授業タイトル:「ついに開花! 自分の花を咲かせよう!」
4校目の訪問先は、立川市立第七小学校です。
事前打合せの際に6年生に進級したばかりの頃に制作した作品を見せていただきました。「まだ見ぬ花。私の開花宣言」と題し、“もし、自分が花だとしたら?”をテーマで描いた絵だそうです。
実在する花もあれば、空想の花もあり、それぞれが自分なりの花を表現しています。そんなこどもたちの絵を見て、潘さんが考えた訪問授業案は「自分の花を学校に咲かせる」というワーク。6年生になったばかりの頃に想像して描いた花が月日を経てどんな姿になったか、自分の身体を介して表現する、という内容です。
段ボールや画用紙、お菓子の空箱等の廃材、布や廃棄しても良い服などを自由に使いながら、自分自身を支持体に、花として彩ります。自分を表す花ができたら、自分が咲きたいと思う場所に出かけ、記録撮影を行います。
制作のポイントは「かつて自分が使っていた廃棄寸前のものを家から持ってくる」ということ。
年明けの訪問授業に先立ち、12月21日(水)にオンライン授業を実施しました。45分の中で、潘さんの作品を交えた自己紹介と、1月の訪問授業の内容について説明を行いました。どのような素材を使うのか? その素材を身体のどこにつけるのか? そして、学校のどこで、どんなポーズで撮影するか? について冬休みの間に考えを巡らせておいてもらいます。
冬休みを挟み、いよいよ実施日当日(1月23日(月))を迎えました。
こどもたちが家から持参したのは、今は着られなくなった服や昔使っていたノート、お菓子の空箱、包装に使われていたリボンなど様々。家から持参したものを中心に、先生が用意した幅広い素材も使いながら「自分の花」を表現していきます。
以前に描いた絵も振り返りつつ、どんな花を表現するか考えます。悩んだときには潘さんに相談です。
KUMONで取り組んだ回答用紙を使って花を作る子や、サッカーが好きだからとスパイクで自分を表現するという子も。
《宇宙のライオン》と題した絵は、こんな姿で表現!
自分を彩る花が完成したら、それぞれに校内の好きな場所に出かけ撮影をします。
校庭や屋上、理科室などの思い思いの場所で、どんなポーズをとるかもじっくり考えます。
撮影した写真は学校のクラウドシステムにアップし、最後に図工室で鑑賞しました。
上写真は“才能が開花”した自分。開花した自分の脳みそも表現されたダンボールをまとう姿でたたずむ一枚です。
「美術は自分の生活の中から想像してできるものもあるし、想像したことを別の形で表現することもあります。綺麗で美しい絵だけではなく、自分自身にとっての美しさについて考えて表現することもあります」と潘さん。
最後に、こどもたちからの質問タイムです。アーティストになろうと思った理由や、苦労したこと、アーティストとしての仕事の楽しさ、などについて、活発な質問が寄せられました。
(A.T)
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