2022年11月05日(土)

ワークショップ2022「偏愛会議 ~開け!あなたの「偏」な愛~」

ワークショップ

人には何かしら偏愛しているモノやコトがあると思います。8月に実施(全3回連続)したワークショップのテーマは「偏愛」。企画・講師はデジタルメディア・アーティストの佐々木遊太さん。
そもそもなぜ偏愛なのか?それは佐々木さんの「様々な背景をもった人々が共に笑っている状況(共同体験)をつくりたい」という自身の偏愛に端を発しています。この偏愛に基づいて佐々木さんの全ての作品が制作されています。

そこで本ワークショップでは、参加者に自分の中にある偏愛について発表してもらい、共に語り、さらには他人の偏愛を追体験してもらいました。ワークショップの最終回である3回目には、佐々木さんが1回目と2回目のワークショプの様子を記録し編集した動画を上映し、偏愛について語る参加者自身の姿を客観的に見てもらう体験もしました。

ワークショップの1回目には、発表者の話の内容に他の参加者が共感した割合を視覚化するために佐々木さんが開発した「ラブ・バルーン(愛の風船)」という装置を導入しました。話を聞いて共感した時に手元のスイッチを押すと風船に空気が送り込まれ膨らんでいきます。最終的に風船の高さを計測しその人に向けられた共感度を測りました。相手が話している最中、どんどん目の前で風船が膨らんでいく様はまさに佐々木さんが偏愛する「共同体験をつくること」の現場にリアルに立ち会っている様相を呈していました。

ワークショップ1回目:「偏愛」を語る

ワークショップの1回目。講師の佐々木さんの自己紹介の後、参加者に事前に書いてもらっていた自身の偏愛にまつわるキーワードから佐々木さんがランダムに選び、該当者から順次偏愛について発表してもらいました。

  • 偏愛会議の様子

  • キーワードを選定中の佐々木さん

参加者の偏愛キーワードは以下のようなものでした。

Aさん:「シンメトリー」
Gさん:「ものづくり」
Tさん:「くせの強さ」
Kさん:「ひとり行動」
Eさん:「愛好家」
KTさん:「他人の犬」
Sさん:「モンゴル」
Mさん:「なんでも絵に描きたい」

  • 自作を紹介するGさん

  • Gさんのアクセサリー

  • 共感度を測る「ラブ・バルーン」

  • 測定中の佐々木さん

例えば、Gさんの偏愛する「ものづくり」。もの作りが好きでなんでも作ってしまうそうです。もらった布やビーズなど他人がいらない物から新たな物を生み出す、お菓子や料理にもこだわりを持ってしまう。作っている時が好き。自分が作ったものには自分だけの価値がある。でも他人に受け入れられるわけではないという狭間にいるとのこと。Gさんが見せてくれたアクセサリーやその日着てきたシャツも自分で作ったそうです。これを聞いて共感度を示す「ラブ・バルーン(愛の風船)」が一気に膨らみました。

  • 偏愛を発表するMさん

  • Mさんの描いた食べ物の絵

一方、「なんでも絵に描きたい」というMさん。幼少期から絵を描くのが好きで、仕事にしてしまったことで描ける範囲が狭まってしまったそうです。そこで、仕事以外の絵を描きたいと思い食べ物を描き始めました。描いたあとで絵をみて再体験できるそうです。また、人を描く時に例えば、「その人を口に入れたらどんな感じなんだろう?」と想像することで、描く対象への興味が出てきて、いろんな感覚を使って考えるようになったとか。

こうした様々な偏愛の発表を聞きながら、他の参加者も質問をしたり、共感したり、自身の経験を語ったりと話がどんどんと広がっていきました。しかし、共感しにくい話題、例えば自分は犬が嫌いなので話しの輪にどう加わったらよいか悩む人もおり、佐々木さんからなぜ嫌いなのかと問われ、その理由を語ってもらうことで、逆により一層その人の偏愛について考えるきかっけにもなっていきました。

1回目の最後に次回までの課題として各自今回発表された他人の偏愛をやってみるというお題が出されました。

ワークショップ2回目:課題のフィードバック

ワークショップの2回目は、他人の偏愛をやってみるという前回出題された課題の発表。
各自に出されたお題は以下の通りです。

Aさん:「宝塚を見てみる」
Gさん:「トマト、牛タン、納豆、ほうとうを素材に料理をつくる」※素材案は参加者からの募ったもの。
Tさん:「街中で顔に見えるものを探して写真に撮る」
Kさん:「くせのある演技を提示する」
Eさん:「犬の絵を描く」
KTさん:「愛好家を検証する」
Sさん:「犬に会ってみる」
Mさん:「モンゴル料理を食べる」

  • 課題「犬に会ってみる」を発表するSさん

  • 「ひとり行動」をやってみた感想を語る佐々木さん

例えば、Sさんへの課題「犬に会ってみる」。これは「他人の犬」を偏愛するKTさんの偏愛を追体験するもの。実はSさん、そもそも犬が苦手で、だからこそこの課題に挑戦してくれました。職場で犬を飼っている人に話を聞き、実際に犬に会ってみようとネットで犬の写真を検索したがやっぱりかわいいと思えなかったそうです。では、自分はどんな犬の写真だったら興味を持てるのかと、別の視点で犬を見てみると人間味のある犬だったらかわいいと思えることに気が付いたそうです。今度は犬を抱っこするってどんな感覚なのか知りたくなったので、抱いてみたいと抱負を語ってくれました。

一方、講師の佐々木さんもみなさんの偏愛に触発されいくつかチャレンジしてみた結果を語ってくれました。そのひとつが「ひとり行動」です。一人飲みをやってみたそうです。初めてやってみて気がついた事として、この時はスマートフォンを見ないという条件を自分に課すことで周りの会話に意識がいったり、マスターが話しかけてきてウイスキーの話で盛り上がったなど、一人ならではのコミュニケーション経験ができたといいます。

他の参加者も自分の中には無い、全くの他人の偏愛について実際に意図的にやってみることで、その偏愛に対する新しい気付きや共感がさらに増したようです。

ワークショップ3回目:記録映像の鑑賞とまとめ

ワークショップの3回目は、これまでの2回の様子を記録した映像を基に佐々木さんが編集した動画を上映し鑑賞しました。鑑賞時「openSE」という佐々木さんの作品である、声援(「いいね!」「最高!」など)を送れるアプリケーションを活用し、各自このアプリを用いて上映中声援を送って反応してもらいました。1回目と2回目の様子が端的にまとめられており、自分の偏愛及び他人の偏愛をあらためて客観視することができました。動画鑑賞後は、このワークショップ全体の振り返りを行いました。

  • 「OpenSE」で声援を送る皆さん

  • 記録映像の上映会の様子

  • ワークショップ全体の振り返りの様子

  • 一人ひとりの感想を発表

参加者からでた感想を抜粋し紹介します。

●「好きなもの(好きな癖)をどのように愛好しているのか」が多様に知れてよかった。他人の好きなもの・好きな癖を交換してみる、というのはとても面白かった。自分の価値観に他者の趣味嗜好が入り込んでくる楽しさが久しぶりに体験できた。

●今回、新しい学びになったのは、「インタラクティブ性」です。個人的な「ものづくり」は一方的な人が多く、自分はちょっと違ったのが自分には「インタラクティブ性」があったことに気がついた。

●今まで自分の偏愛について人に説明したり、言語化する機会がなかったので、なぜ好きなのか、どこが好きなのかを改めて考えるきっかけになった。また、他の方の偏愛のお話を聞き、体験することで今までわからなかった偏愛にはまる気持ちがすごくよく分かり面白かったし、新たな価値観を得られたと思う。

●自分の中に偏愛なんて無いだろう!と思っていたが全然あった。ひとり行動もっと極めてやるぜ!!とモチベーションが上がった。今後1人旅行と1人酒を実行する予定。

●好きなこと・もの・人は人からどう見られても好きでいいんだ!という発見があった。自分の好きも他の人の好きも大切にできる世の中になると生きやすいのではないか?映像もそれぞれの“好き”を尊重して編集していただいたので、見ていて安心・納得した。これからも好きを大切にして生きてゆきたい。

●他の方の好きなものを聞いたり、それを自分が体験するのが面白かったし、普段自分が好きなものやことをあまり人に言わないので(相手もそれを好きだと知っていないかぎり)、この機会に人に伝えることができて良かった。

●普段出会わない人たちと会い、自己開示して「きっとだれも共感してくれないんだろうな」という話をするのは初体験だった(すごくパワーがいった)。ワークショップ後、今なら「大丈夫かも!」と思いドッグカフェに行ってみたが、やはりダメだった。きっと「だれの犬でもない」からかもしれない。

●自分の世界を拡げたり、新しい視点を持つのに“人と関わること”→“人に興味を持つこと“→”行動を起こすこと“というプロセスが大切だなあと改めて実感した。ただ話して、盛り上がって何となくその場で終わる(その話題について)というのが多かったと自分を振り返るきっかけになった。人(他人)の好きなもの(自分の興味外)に積極的に突入していくっていうのは、エネルギーがいることだけど、自分に異物が入ってくることで大きな化学変化?反応があっていいな!と思った。

このワークショップでは、単に自分の「偏愛」を人前で話すだけでなく、他人の偏愛を体験してみるというまるで他人と自分を入れ替えるような奇妙な体験もしていただきました。参加者の偏愛内容は、こちらの想像をはるかに超え、強烈なものばかりでした。参加者も自分の偏愛について人前で話すとわかっていても、多少の躊躇はあったようですが、会場にいる全員が偏愛持ちで、ある種の同士という連帯感が、ワークショップが進むにつれて生まれていきました。そして、会話を通じて自分の中の偏愛が他人に共感され、意見をもらうことで新たに自己更新され、自分では気が付かなかった側面も加わり偏愛がより一層強化されていったようでした。
みなさんのお話を伺って感じたのは、偏愛はその人の人生そのもの、生活や生きるための糧にもなっているということです。そのため、時にその偏愛は、悩みの種にもなるということです。あまりにも自分の中に占める偏愛度が大きくなりすぎて日常生活にも支障をきたすようになり、一度は絶つ決心をした人も今回の見知らぬ参加者との会話を通じて、再度このままで良いのかもしれないと思い留まった人もいました。一つのものに執着し、極めること、ずっと好きであり続けること、そのための工夫や努力は、大変なエネルギーもいりますが、その人を活き活きとさせ、輝かせているのだと、偏愛を語る様子からひしひしと伝わってきました。(G)

(実施概要)
ワークショップ2022「偏愛会議 ~開け!あなたの「偏」な愛~」
■企画・講師:佐々木遊太(デジタルメディア・アーティスト)
■場所:東京都現代美術館
■参加費:3,000
■実施日時:
1回目202287日(日) Aチーム10:15-13:00Bチーム14:30-17:15
2回目2022814日(日)Aチーム10:15-12:15Bチーム14:30-16:30
3回目2022821日(日)Aチーム、Bチーム13:30-15:00
3回目はAB両チームが集い合同で実施。
■対象・参加人数:
Aチーム:4人(18歳以上から30代)
Bチーム:4人(40代以上)
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■企画担当:郷泰典(教育普及係)
■記録撮影:金川晋吾

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