2022年03月11日(金)

アーティストの1日学校訪問(風間サチコさん)レポート1

アーティストの1日学校訪問

当館の所蔵作家が、都内の学校を訪問して授業を行う「アーティストの一日学校訪問」。令和3年度は美術家の風間サチコさんとともに、小学校4校、高校2校の計6校を訪問しました。

風間サチコ氏のポートレート

風間サチコ氏

今回の学校訪問で風間さんが考えたテーマは「ユーモアを交えながら考えを上手に伝える方法」。“普段、生活する中で、思ってはいてもなかなか人に伝えられないこと”に注目し、アートを手段に自分の考えを表現するという内容です。

「正直マスク」と題したワークの内容は、自分の口をモデルに消しゴム版画を作ったら、不織布マスクに押し、マスクを着用したときに広がるプリーツの折り込まれた部分に普段はあえて言わないけれど、実は…といったクスリと笑える本音を書く、というものです。
今年度はコロナ禍での実施となりましたが、感染対策を講じながら授業を進めていきました。各校での授業の様子をレポートします。

1校目】20211125日(木) 都立飛鳥高等学校 高校23年生 14

訪問1校目は、都立飛鳥高等学校です。美術を選択する高校生を対象に実施しました。

制作を始める前に、まずは風間さんから作品紹介や制作にかける思いについてお話がありました。
風間さんの代表作の一つである幅6mを超える版画作品《ディスリンピック 2680》の迫力を少しでも伝えようと、担当の先生が画像を長尺プリンターで印刷しておいてくださいました。
実際の作品サイズはこの何倍もの大きさであることを知ると驚きます。

続いて、消しゴム版画の作り方の実演です。
風間さんが実際に自分の口をモデルにして消しゴム版画を彫り出す過程を目の前で披露してくれました。切り出す際のコツやポイントなども丁寧に教えてくれます。

消しゴムハンコで表現するのは、“自分の口”ですが、コロナ禍により制作中はマスクが外せないため、事前に各自のスマホやタブレットなどで、撮影しておいてもらいました。

1cm程度の厚みの消しゴム版に下絵を描いたら、カッターや彫刻刀などを用いて切り出したり、彫ったりしていきます。完成したらインクをつけてマスクに押します。

主食はオムライス

主食はオムライス

普段はあえて言ってなかったけど、“実はこうなんです”という本音をマスクに記します。

最後はみんなでマスクを装着して記念撮影!
それぞれに個性にあふれるマスクが完成しました。

2校目】 20211130日(火) 港区立南山小学校 6年生 31

徒歩圏内にいくつもの美術館がある港区立南山小学校のこどもたちは、普段から作品鑑賞をする機会があり、作品を手掛けているアーティスト本人と出会える今回の訪問授業に向けて関心が高まっていたそうです。
風間さんについて調べる事前学習をしたこどもたちから、たくさんの“風間さんに聞いてみたいこと”が美術館スタッフ宛に寄せられ、当日は風間さんがそれに答えながら自身について語ってくださいました。

こどもたちから寄せられた質問の内容は「絵を描こうと思った理由、挫折の経験、子どもの頃にやっておいた方が良いこと、やる気の出し方」など多岐にわたります。
風間さんはご自身の小・中学生の頃の体験を交えて、分かりやすい言葉で丁寧に話してくれます。
例えば、絵を描こうと思ったきっかけは、「小さなころから一人遊びが好きで、絵を描くことが好きだったから」。挫折の経験については「小学生の頃に重い喘息になり、半年入院したことがきっかけで学校に行けなくなってしまった」というエピソードも。そのときの気持ちを表した作品の紹介もありました。やっておいた方がいいことについては、「勉強!算数や国語など、普通のことがちゃんとできるようにしておいた方がいい」というようなお話もあり、こどもたちはアーティストからの言葉を真剣に受け止めていました。

風間さんによる「正直マスク」の説明と実演を経て、いよいよ制作開始!
事前にタブレットで記録した自分の口の写真を参考にしながら下絵を描きます。
口を閉じていたり、開いていたり、歯が見えたり、舌を出したりと、それぞれの口の形をゴム版に彫っていきます。

思うようにいかないときや、アドバイスが欲しいときには、風間さんに見てもらいます。

40分ほど経ったところで、インクを付けてマスクに押す工程へ。再び風間さんがやり方を披露してくれました。

好きな色のインクを選び、紙に試し押しをして彫りの調子やインクの付き具合を確認したら、マスクに押します。
そして、マスクをしていないときには、隠れて見えないプリーツ部分に、ユーモアのあるメッセージを書きます。
このとき何を書くかはあえて口に出さずに、それぞれが心の中で考えることがルール。

マスクが完成したら、最後にみんなでマスクを着用して見せ合います。マスクから垣間見える友達の意外なメッセージをみて盛り上がります。

  • 「車は新車より旧車が好き」

  • 「次、引っ越したいのはNIPPON」

こどもたちが書いたメッセージのいくつかはこんな内容。
「夏休みの宿題ギリギリで終わらせた」、「アニヲタで何が悪い」、「うちの犬より通りすがりの犬の方がかわいい」、「初恋の人おののいもこ」、「戦車命」、「あつ森1000時間プレイ」など。
思わず「それってどういうこと?」と聞きたくなるような内容もあり、マスクをきっかけに話が盛り上がります。6年間、単学級で一緒に過ごしたクラスメイトたちですが、これまで知らなかった新たな一面と出会う機会にもなりました。

(A.T)
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