実践! リモート授業
昨年度、新型コロナウイルスの影響により、学校団体による美術館への来館が難しくなったことを受け、こどもたちと出会わなくても出会える方法として「分身」による作品鑑賞プログラムを実施しました。
詳細下記、教育普及ブログ参照
https://www.mot-art-museum.jp/blog/education/2020/08/20200815145203/
このプログラムを実施した町田市立南第一小学校から今年度も「分身」による作品鑑賞プログラムを実施したいとのリクエストがありました。対象は5年生3クラス。昨年は学芸員から「分身」のやり方を記した手紙を学校に送り、図工担当教員が図工室で説明や制作の指示を行うアナログな遠隔授業の方法を取りました。今年度はネット環境を活用して図工室と美術館とをつないだリモートによる授業を展開(クラス毎に2回実施)。直接画面越しにこどもたちとコミュニケーションを取りながら進行しました。
リモート授業では、図工室全体を俯瞰して映し出し、こどもたちにはカメラ前に集合してもらいました。ただし、感染防止のため発言者以外は話さないというルールをとり、話す時はカメラの前に出てきてもらいました。
授業1回目(実施日:2021年5月24日1組、26日3組、28日2組)
導入で学芸員が美術館の説明をしたのち、自分達の「分身」を作り、その「分身」が美術館に行き展覧会を鑑賞することを伝えました。単に画面越しで一方的な話のみで進めるのではなく、実体感を伴えるよう「分身」の例として学芸員の「分身」を事前に学校に送付し、リモート授業中に図工室で登場させるなどリアルな体験を誘発しました。図工室に学芸員の「分身」が登場すると大いに盛り上がりました。また「分身」がどのようなものかを理解してもらう一助ともなったようです。その後、図工担当教員がこどもたちの「分身」用の写真撮影を行い、プリントアウトを待っている間、「分身」が鑑賞するマーク・マンダース展やコレクション展の一部を紹介しました。プリントアウト後は、体の輪郭線に沿って切り抜き「分身」を作成して終了。図工担当教員を通じて「分身」を美術館に送付してもらいました。
こどもたちの「分身」が美術館に送られてきた後、「分身」を展示室内に連れ出して、作品を鑑賞しているかのように撮影して写真データを学校へ送付しました。
授業2回目(実施日:2021年6月7日1組、9日3組、11日2組)
授業2回目もリモートによる授業です。「分身」が作品鑑賞をしている写真データを画面共有でモニターに映し出して紹介。こどもたちからは、「すごい!」「居るみたい!」など思い思いの感想が出てきました。
「分身」による作品鑑賞の様子を紹介した後は、自分の鑑賞写真を用いて実際に展覧会に行ったつもりになって想像しながら鑑賞日記を作成してもらいました。フォーマットは図工担当教員のアイデアで絵日記形式、写真を切り張りし吹き出しなどを付けるコラージュ形式、自由形式の3パターンの作成方法が用意。展覧会チラシも事前に学校に送付し活用してもらいました。
日記作成中は、美術館側もしばし待ち時間が発生しフリータイム。その間、ホワイトボードに「質問のある人はカメラの前へ!」と書いて随時質問を受け付けました。作品のタイトルを聞きにきたり、美術館のことを尋ねられたり、また完成した鑑賞日記をいち早くカメラ前に見せにくる子もいました。
日記完成後は、クラスみんなの前で発表してもらい、学芸員もコメントを寄せました。
授業のまとめとして、こどもたちに感想を聞いてみると、
・本当に美術館の中を歩いているように感じた。
・本当に美術館に行った気分になった。
・マンダースさんの作品は誰でも作れそうだけど難しいと思った。
・本物を見た方が色々発見できると思ったけど、写真でもわかることがあって不思議な体験だった。
・うまく写真を撮影してもらって嬉しかった。
・ポーズを大きくした方が良かったと思った。
・みんなのポーズが面白いと思った。
・実際に美術館にいってみたい。
などの声があり、実際に美術館には行けなかったが、「分身」を用いたバーチャルな美術館での鑑賞体験を楽しんでくれたことが伝わってきました。
また、終了後の図工担当教員からのアンケートには、
「リモートの良し悪し(画面越しのため自分ごととしての意識が低かったような気がする)はあるが、外部とつながり連携していくことが、こどもたちにとっても教員にとっても、有意義な活動だった。事前に学芸員と対面したり、美術館の情報を得たりしたことで、日記の表現は昨年よりも広がりがでた」
と書かれており、リモートによる連携授業の意義や昨年よりもこどもたちの表現の幅が広がったことが伺えました。
今回は、昨年同様「分身」による作品鑑賞という授業内容は変わっていません。しかし、昨年のアナログな手紙を介した遠隔授業と違って、リアルタイムで学校(こどもたち)と美術館(学芸員)をネットでつなぎ、ホワイトボードの活用や実体感を伴える仕掛けなどを用意することで、離れていても一緒に授業をやっている実感がもてました。だだし、教員のアンケートにもあるように、カメラ越しのため、全てのこどもたちとコミュニケーションをとることは難しく、後方にいて画面に映っていない子までは配慮がいきとどかなかった場面もありました。実際に対面しながらその場で話すのとは空気感も異なるため、リモートではその分互いの心理的な距離を縮める工夫が必要であると感じました。
一方、実施した学校は町田にあるため簡単に現代美術館にまで足を運ぶことができません。また、コロナによって外出や人との接触が制限されリアルな体験が不足しがちな時代です。しかし、「分身」のプログラムはリアルな雰囲気を味わいつつ、コロナが収束した折に実際に美術館に行ってみたいという気持ちを誘発することにもつながったのではないでしょうか。今後も直接出会う対面による出張授業も併用しながら、リモートの可能性を探りつつネットを活用した学校連携をすすめていきたいと思います。(G)