「版画」の触察ツール
2019年度に作成した油彩画の触察ツールに引き続き、版画をテーマとした触察ツールを作成しました。本ツールは、視覚に障害のある方だけではなく、こどもから大人まで幅広い来館者が、見る、触るという行為を通じて、鑑賞体験を深めていただくことを目的に作成したものです。
当館が所蔵する作品は版画が最も多く、次いで油彩画で、これまでこれらの作品とコレクション展示室で出会える機会は多くありました。
文字通り、版に施した図柄を写し取って作成する版画ですが、「版画」と一言でいってもその種類は様々。
例えば「この作品は銅版画です。ドライポイントという技法を使っています」と言われても、それがどんな方法で他の技法とどのように違うかを想像できる人は少ないと思います。
そこで、ファシリテーターが版画作品を紹介する際に、状況に応じて鑑賞者に見たり触ったりしていただくことを想定したツールを作成しました。
版画の触察ツールは、木版、銅版、リトグラフ、シルクスクリーンの4つの版種を取り上げました。技法の仕組みを伝える触察模型や、版を作るために使う道具や描画材、実際に制作した版、そしてその版で刷った作品などです。
また、版画によく用いられている紙を1冊に綴じた紙見本帖も作成しました。
今回のブログでは、銅版画ツールの一部をご紹介します。
例えば、銅版画のドライポイントという技法では、先のとがった道具を使って銅板を彫り、版面にできた凹部(くぼみ)にインクをつめて、刷り取ります。
上右写真の引き出しには、版面を直接削ったりするために使うニードルやビュラン、それらの道具を使って実際に図柄を施した版などが入っています。手に持って重さを確かめたり、道具ごとの持ち方を試してみたり、版面に刻まれた線を触ったりすることができます。
これらの道具を使って図柄を施した版(左上写真)。そしてそれを実際に刷った作品(右上写真)もご用意。
続いて、作品を刷る過程をご紹介したいと思います。
制作にあたっては、特別な道具や環境が必要となるため、版画LABO・EBISさんにご協力をいただきました。
インクの定着を良くするため、紙は事前に水に浸しておきます。刷る前に余分な水気を取ったら準備完了。
インクは良く練り、照りが出てきたら、ウォーマーの上に置いて温めておいた版にインクをつめていきます。版を温めておくことで、インクの入りが良くなります。
版にインクがつまったら、目の粗い布から、きめの細かい布へと持ち替えて、凹部以外のインクをふき取ります。
銅版画用のプレス機を使って、刷っていきます。
版面に施されたくぼみに入っているインクがプレス機を通り圧力が加わることで、紙に写し取られます。
触察ツールボックスには、触れるものだけでなく、このような制作過程をまとめたカードも作成し、収納しました。
今回は銅版画ツールの一部をご紹介しましたが、それ以外にも技法ごとにその特徴を伝えるツールをご用意しています。
美術館に展示されている作品そのものには触れることはできませんが、これらのツールを介することで、版画の世界を広げていただく一助となればと考えています。
(A.T)
制作協力:門馬英美(版画家)
版画教室 版画LABO・EBIS、町田市立国際版画美術館