アーティストの1日学校訪問(開発好明さん)レポート3
【5校目】 2021年2月19日(金) 葛飾区立葛飾小学校 6年生 1クラス 23人
卒業を間近に控えた6年生が対象となった葛飾小。中には、一昨年、当館で開催した「あそびのじかん」展で、開発さんが手掛けた作品を見てくれた子もいました。
「僕がみんなと同じ小学校6年生のときはコックさんになりたかった。中学2年生のときにアーティストになりたい、と思いました。昔からもの作りが好きでした」などと語る開発さん。みんな真剣に耳を傾けます。
立体作品を作る、紙に絵を描く、ダンボールに絵を描く、のどれかが書かれている最初のミッション。そこにはさらに未来や風景、思い出などといったテーマも書かれており、人それぞれ異なります。この最初に引き当てたミッションは最後まで継続していきます。
それぞれがミッションに応じて、好きな素材を集めて制作スタート。静かに始まった制作は、15分ほど経ったところで、開発さんから2つ目のミッションを開くように伝えられます。
2つ目のミッションには、「最近見た夢から選んで絵、立体を作ってください」「海と名のつく何かを描き入れてください。もしくは海のように大きく作ってください」「理想の街の一部を加えて作りましょう」といった制作にかかわるものから、「好きな時に3回立ち上がってください」「身体にさわらないように合図を送り、気づいた人にウインクしてください」などといった、静かに繰り広げられるミッションも。
さらに時間が経ったところで、3つ目のミッションです。次第に、声を出したり、身体を動かしたり、誰かに向かって何かをする、といった動きを伴うミッションが増えていきます。
新たなミッションが開かれるたびに、「やばい!」「コレ、めっちゃはずかしい!」といった声も上がっていましたが、声を出すミッションを引き当てた子は、自主的に舞台上にやってきて、ミッションを遂行していきます。「最近読んだ本の感想を立って声に出して教えてください」といったミッションを受けて、ちょっと恥ずかしそうにしながらも、「残念な生き物ばかりみましたー!」と伝えてくれた子も。
「がんばれー!」とみんなに向かって伝えたり、今の時間を身体で表現したり。
はずかしいなあ、とつぶやきつつも、声を出すときには、少し離れた舞台上でみんなの注目を集めながら叫びます。他校では見られなかった、独自のシステムの誕生です。
そして誰かが舞台上でミッションを行うと、拍手や歓声、時に「よくやった!」という掛け声もあがるなど、表現したことをみんなが受け止めながら進行していきました。
しばらくすると開発さんによる「開発くんどんでん返しミッション」が行われました。これは、学校によって発動されたり、されなかったりする、全員で取り組むミッションです。
開発さんが引いたくじに書かれていたのは「恥ずかしくてできないミッションを誰かと交換」。近くの人と、ミッションを1つチェンジします。
誰かが「聞こえますかー?」と言ったら「聞こえませーん」という連動ミッションもあれば、誰かを誘って、一緒に体育館の角で10m泳いだり、次に描くものを隣の人に決めてもらうミッションも。
約1時間15分の制作時間を経て、出来上がった作品の鑑賞を行いました。
今回の授業では、ミッションに書かれたことをこどもたちが自分なりに考えて、表現している姿が多く見受けられました。様々なミッションによって、想像もしていなかった作品が出来上がっていました。
【6校目】 2021年3月6日(土) 東村山市立萩山小学校 4年生 2クラス 64人
最後の実施となったのは、小学4年生62人です。広々とした体育館で、同心円状に広がって実施しました。
導入部分が終わると、ミッションに取り掛かります。最初のミッションを開き、作る素材を取りに行きます。例えば、「紙に今日の出来事を描く」といった内容のミッションは複数用意されています。しかし、同じスタートを切りながらも、その後のミッションにより、作品はそれぞれに全く異なる姿へと変わっていきます。
ある程度時間が経ったところで、2つ目のミッションをオープン。
「作品に階段を入れてください」「トラの気持ちで作品を作ってください」「横にのばしてみましょう」「好きな時に立ち上がってください」「体育館にいる先生の行動をバレないようにまねする」などなど。
何か困ったことがあったときや質問がある際には、手を真上にあげたら身体の真横に下げる、というジェスチャーで伝えます。最初は多く手があがっていた質問ですが、ミッションを重ねるごとに質問は減っていきます。自分自身で良く考え、笑ったり、照れたりしながら、ミッションを行っていきます。
「みんなが元気になれる言葉を言って」というミッションを引き当てた子にどんな言葉を言ったか聞いてみると、「みんながんばってー」と言ったそうです。その言葉に対して「ありがとー!」といった返しの言葉があったそうです。
中には、体育館に留まらず、「好きな教科書を5分以内に教室から持ってきてください」といったミッションもありました。
上写真は、作品の良いところに〇をつけてもらう、というミッション。いいところがたくさんあったようで、多くの〇で彩られていました。
約1時間の制作時間を経て、作品の鑑賞を行いました。
どんなミッションを経て完成した作品か、何点かご紹介します。
最初に「未来について描く」という制作テーマを引き当てました。
その後は、「好きなときに立ち上がる」⇒「水をたっぷり使って作る」⇒「立ち上がって、みなさんがんばってください、と言う」⇒「大きなネコを入れる」といったミッションを経て完成。
こちらの作品は「未来エレベーター」を想像して描いたそうです。地球と月とをつなぐエレベーターには、ネコが乗っています。
「立体を完成させる」⇒「たたくと音がでる作品をつくる」⇒「勇気の木のてっぺんに立つ気持ちになる」⇒「だれかが体育館をまわりはじめたら、逆回りで歩く」⇒「だれかに、自分の絵の真ん中に好きな大きさで自由の女神を描いてもらう」といったミッションが遂行された作品。
その他にも、数々の独創的な作品が出来上がっていました。
今回の開発さんによる学校訪問授業は、様々な行為そのものを楽しむとともに、自分自身でコントロールできない作品作りに取り組み、参加者同士がこの場と時間を共有しながら起こるハプニングを体験するという内容でした。
訪問授業後に寄せられた教員の方からの感想には、
・今までにない「図工」の時間となりました。今を生きているアーティストと一緒に過ごした場と空気がとても感動的で刺激的な時間となりました。
・普段の図工ではできないことができてこども達は嬉しそうでした。こどもの想いや考えが大切に生かされている授業でした。
・開発さんならではの発想と出会ったこどもたちの中で、目には見えない変化がたくさんあったことが感じ取れた学校訪問授業でした。
・こどもたちにとって非日常の作家であった開発さんとのやりとりが、今後の人生に大きな影響となったことをこども達自身から聞くことができました。
などといった感想がありました。
開発さんならではの発想と出会ったこどもたちの中で、目には見えない変化がたくさんあったことが感じ取れた学校訪問授業でした。
(A.T)