アーティストの1日学校訪問(開発好明さん)レポート1
コロナ禍での実施となった、2020年度のアーティストの1日学校訪問は、各校先生方のご協力のもと、感染対策に配慮しながら実施しました。
今年度担当してくださったのは、観客参加型の作品やワークショップなどを手掛けている美術家の開発好明さん。
開発さんならではの発想と出会える授業を考えていただきたい、という美術館側からのリクエストを受けて考えてくださった授業案は「注文の多い工作 ~わかりませんが完成はします~」。思わずクスリと笑ってしまうこのタイトル。
通常の学校の授業では、みんなが同じ課題に取り組みますが、今回の開発さんの授業では、作るテーマも、その過程も、出来上がるものも人それぞれ。結果はどうなるかわからないけれど、たくさんの注文=“ミッション”を受けながら、作品を作っていくという内容です。
参加者は、ミッションが書かれたくじを複数回にわたって引き、そこに記された「作品」「他者」「身体」に関わる指示に従いながら、作品を作っていきます。
最初のミッションには、「絵を描く・ダンボールに絵を描く・立体を作る」のどれかが書かれており、基本的には引き当てたものを最後まで継続して制作していきます。
ミッションは、直接作品作りに関係するものだけでなく、他者と関わる指示や身体を介した表現など、その内容は様々です。そして、ミッションは自由な解釈によって展開してOK。
さて、どのような授業となったか、今年度訪問した6校の様子をご紹介します。
【1校目】 2020年10月17日(土) 品川女子学院 中学1年生~高校2年生 25人
学校訪問1校目の実施となった品川女子学院では、土曜日の午後に設けられた特別講座の中で、中学1年生から高校2年生までの希望者を対象に実施しました。
会場は、広々としたダンススタジオ。最初に開発さんの自己紹介を聞いたら、ジャンプしたり身体を揺らしたりとウォーミングアップを行います。身体のウォーミングアップの次は、頭のウォーミングアップ。近くの人と向き合ったら「目の前の人のいいところを5つ言って!」と開発さんから指示が。中には初めて会った人同士もいますが、瞬間的に考えて伝え合います。
身体と頭がほぐれたところで「注文の多い工作」がスタート。
一人ずつ、巻物のように丸められたミッションを引き、1つ目のミッションを見ます。
最初のミッションには、「立体を完成させます。未来を表現」「紙に絵を完成させます。思い出について描いてください」「ダンボールに絵を完成させます。今日の出来事」などといった指示が書かれています。
それぞれに、思い思いの材料を調達したら制作に取り掛かります。20分ほど経ったところで、開発さんから次のミッションを見るように指示が。2つ目のミッションには、「5分後に作品に向かって深々とお辞儀をしてください」「作品に犬を入れましょう」「教室にいる先生の似顔絵を書き入れてください」など、作品を変えるような指示もあります。
思いもよらない指示を受け、それをどう表現するか考えながら、作品を展開させていきます。
その後は10分ごとに、新たなミッションを開いていきます。
「5分に1度拍手してください」「誰にも気づかれないように教室を1周してください」「誰かが“あいうえお”と言い始めたらABCDを言い始めてください」など、ミッションを重ねるごとに、身体を使ったり、他者と関わったりするような指示が増えていきます。
「一番近くにいる人に頼んで花の絵をかいてもらってください」を実行中。人の作品に手を入れるのはちょっと緊張します。
1時間ほどの制作時間を経て、完成した作品の鑑賞を行いました。
個性にあふれた作品が完成。
こちらは「より高くしてみましょう」というミッションを受けて、物理的な高さを出すのではなく、“彩度を高くした”という作品。
今回のワークは、引き当てたミッションを、自分自身がどう解釈して表現するかも大切なポイントです。
開発さんが考えた授業タイトル通り、皆さんしっかりと作品は完成していました。
声を出したり、身体で何かを表現したりと、恥ずかしくてできなかった人もいたかもしれませんが、引き当てたミッションのドキドキを味わうことは今回の授業のだいご味でもあります。
参加した生徒さんからは
・普段の授業は完成形がわかっているが、今回はその場にいる全員が完成を知らない、という点にとてもワクワクしました
・感想を一言で言うと“芸術は爆発だ”と感じた
・芸術は正解がないというのを再認識しました
・一定のものにとらわれない想像力が身についた
・今まで、あまり自分から絵を描いたり物を作ったりすることはなかったけれど、今回の訪問授業で絵を描くのが楽しいと思えるようになりました
などといった感想が寄せられました。
【2校目】 2020年11月6日(金) 江東区立毛利小学校 6年生 2クラス 59人
2校目は小学6年生を対象に実施しました。毛利小学校では、図工の先生による事前授業で開発さんについてPCを用いた調べ学習を行ってくれたそうです。
開発さんによる作品紹介とウォーミングアップを終えたら、「注文の多い工作」の説明です。
さらに、今回新たに加わった注意点も伝えられます、質問の際に、ただ手を上げるだけだと、“手を上げるミッション”と混同してしまうので、頭の後ろから手をひょこっと上げるように、と伝えられます。実際に授業が始まると、印象的なジェスチャーが体育館内で繰り広げられ、なんとも不思議な光景が広がります。
最初のくじを開いて見ると、笑ったり、ちょっと悩んだりするそぶりを見せる子も。
材料コーナーから思い思いの素材を集めて、制作開始。
ダンボールを支持体にして絵を描くミッションも、表現するテーマは未来だったり、風景だったりと、人それぞれ。
使う道具や素材は、自分で自由に選ぶこともあれば、ミッションによって指示された道具を使うことも。
一定の時間が経ったところで、新しいミッションを開いていきます。
こちらは、モチーフを図工室に取りに行くミッションを遂行中の様子。彼は、太鼓を選び、その模様を作品に取り入れていました。
バランスボールを使って作ってください」を遂行する子。
その他にも、「えんぴつをたくさん使ってかいてください」「今使っている材料とはちがう材料を使ってください」「体育館を「困った困った」と言いながらうろうろしてください」「5分後に好きなおどりをしてください」など、人それぞれ異なる、多種多様なミッションが繰り広げられます。
ミッションによっては、「いつもありがとう」「どういたしまして」というやり取りが生まれている場面も。
中には「30秒間目をとじて、心を落ち着けます」といった外から見ていてもわからない、内省的なミッションもあります。目立つものばかりではなく、自分自身や近くの人だけが気づく控えめなミッションも多くありますが、それぞれに自分なりの方法で表現していました。
制作時間が終わると、どんなミッションを経て出来上がったか発表します。
全員分は見ることはできなかったので、最後に自作を持ち、体育館内を練り歩いて見せ合うことに。
最後に開発さんへの質問タイム。先生が聞きたいことがある人!と聞くと、たくさんの手が上がっていました。
Q.どんな気持ちでものを作りますか?
A.これを作ろうと思ったときが楽しい。作っているときは苦しい時間。それを乗り越えて完成すると、つくって良かったと思う。
Q.アートを作るときに決めていることは?
A.どきどきすること。自分が本気で作りたいと思うことが大事。
など、たくさん手が上がっていた質問に、丁寧に答えてくれました。
実は、ミッションはこれで終わった訳ではありません。最後の挨拶のときに発動されるものも含まれています。「終わりのあいさつの時に「最高でした」と言ってください」を遂行してくれた子もいました。
会場となった体育館は、終始様々な動きが繰り広げられた空間となり、にぎやかな出張授業となりました。
後日届いたこどもたちの感想文には、
・普段工作をしている時ならば絶対思いつくことのないアイディアだったので、固定概念にとらわらない作品が作れた
・“しばりつけられた自由”は楽しいものだった
・自分の中の“自由”の基準がかわったと思う
・こんなに図工が楽しいのか!!と感激した
などといったコメントがあり、この授業を楽しんでくれている様子が伝わってくるものでした。
(A.T)
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