障害のある方たちとの鑑賞活動
2019年度は、障害のある方たちとの作品鑑賞をより充実させるため、さまざまなプログラムを開発し実施しました。
ひとつは、「手話」をテーマにした鑑賞プログラム。
聴覚に障害のある方の中には、コミュニケーション手段として「手話」を言語として使用している方がいます。
そこで「手話」を糸口に「手話」と「作品」の両方の魅力を再発見する鑑賞プログラムを実施しました。
活用した展覧会は、昨年9月に開催された「MOTサテライト2019ひろがる地図」。
プログラムは「美術と手話プロジェクト」という、聾の方が代表を務める市民団体にお願いし一緒に組み立てました。
鑑賞の様子は「美術と手話プロジェクト」のHP上で報告されていますのでそちらをご覧ください。
http://art-sign.ableart.org/1118
もうひとつは、「視覚」に障害のある方たちとの鑑賞プログラム。
こちらは、自身が全盲であり美術鑑賞を研究している半田こづえさんと一緒に組み立てました。
半田さんと事前に美術館の屋外作品やコレクション展示室を巡り、アドバイスをいただきながら作品選定や触察ツール等を開発しました。
後日、実際に盲学校の生徒さんたちに来館していただき鑑賞プログラムを実践しました。
作成したツールは、まずレゴブロックによる展示室マップ。(写真上)
いわば展示室の模型のようなものです。
触ることで展示室全体の空間の様子を把握でき、次に進む部屋の見通しを立てることができます。
レゴブロックを使用することで、展示室の様子が変わっても組み替えることで展示室の様子を随時変更できます。
もうひとつのツールは、作品の絵柄を厚紙を使って凹凸化した触図。
今回はオノサト・トシノブの抽象作品を用いました。
大きさと色彩の異なる丸と多数の線で描かれた作品です。
線はおもいきって省略し、丸をメインにした触図を作成しました。
描かれている丸の配置や大きさはもちろんのこと、色彩の違いに関しては丸の厚み(高さ)を色ごとに変えることで表現しました。
この触図は展示室内で実際の作品の前にかざして使用したので、弱視の方にもイメージが把握しやすいようにベースには元の作品画像をカラープリントしたものを用いており色もついています。
ツール以外には、どんな作品を鑑賞するかも検討しました。
特に現代美術の作品は、絵や彫刻ばかりでなく、言葉からイメージして鑑賞者自身が頭の中で想像することで成立する作品があります。
例えば、オノ・ヨーコの〈ワード・ピース〉などです。
白い画面にひとつの単語(REMEMBER、IMAGINEなど)のみが描かれているこの作品は視覚障害の有無に関わらず共通の鑑賞体験ができます。
今回は、盲学校の先生の計らいで単語を点字にしたカードも作成し活用しました。
また、屋外作品は触ることが可能なため積極的に鑑賞しました。
視覚に障害があるとはいえ、全く見えない人ばかりではなく、近づいたり拡大することで見やすくなる人もいます。
今回、プログラムに参加してくれた盲学校の生徒さんたちは、一人を除いて全員が弱視のため、タブレットのカメラ機能なども活用し、作品を拡大して映し出すことでより見やすくなります。
そうした機器も活用しました。
作品を鑑賞した生徒さんの感想には、
「考えさせるのがアート。その人が考えることで作品になる」
「作品、人それぞれ自由に考えることができていい」
「昔の人の絵も変わったものがある。現代も昔も変わらいのでは」
などがありました。
また、現代美術は初めての生徒も多くいましたが、他の作品もみてみたいと嬉しい感想もありました。
障害のある方達の鑑賞は、情報保障を充実させたり彼らの障害となるものを補助的なツールなどを使用し取り除くことで可能になりますが、作品を鑑賞して得られる体験には、障害の垣根はありません。
今後も様々な工夫をしながら実践していきたいと思います。(G)