アーティストの一日学校訪問(梅沢和木さん)レポート1
2001年度に始まり、19回目を迎える今年度の「アーティストの一日学校訪問」は、当館所蔵作家の梅沢和木さんにご担当いただきました。
梅沢さんは、インターネット上で集めた画像を用いて、独自の手法で再構成した作品を手掛けているアーティスト。今回の学校訪問では「自分地図」をテーマに、自分が興味・関心のあるものや人、ことなどを振り返り、それを言葉や絵、写真などを用いて一つの画面に表現するワークを実施しました。
今年度訪問した6校(小学校3校、中学校1校、高等学校1校、特別支援学校1校)の様子をご紹介します。
【1校目】2019年11月6日(水)三田国際学園中学校高等学校 高校1年 美術選択者18人
学校訪問1校目は、美術を選択している高校1年生が対象です。
今回の梅沢さんによる授業は、実は訪問する前から始まっています。
“自分自身を振り返る”という過程が重要となるため、すべての実施校に共通して、事前に梅沢さんによって用意された「自分地図」に取り組むための“準備のための紙”に自分が好きなものやことを記入しておいてもらいました。
授業は初めに梅沢さんの作品紹介からスタート。今回対象の高校生と同じ年頃に作った作品から現在に至るまで幅広く紹介してくれました。インターネット上の情報が作品にどう関係しているか、といったことなども交えながら、丁寧に話を進めていきます。
続いて、改めて今日取り組む「自分地図」についての説明がありました。
家族や友だち、普段見ている風景、スマホを通してみる情報、旅行、アニメ、アイドル、キャラクター、ゲームなど、自分が好きなことや関心のあることについて向き合い、それらを画用紙に文字や絵で表現します。重要なのは「自分とは何か?」に向き合い、深く掘り下げること。
制作は、まずは自分の名前を大きく書くところからスタート。事前に考えてきた“準備のための紙”を参考にしながら、時に同じテーブルの友達と話しながら制作を進めていきます。
今回の授業では、記憶だけでは思い出せないことを、スマートフォンやPCを使用して調べてもOK。
絵具や色鉛筆、カラーペンなどの描画材料を用いて、画用紙に表現していきます。具体的に文字で書き出していく人もいれば、色のイメージを重視しながら画面を作り上げていく人も。表現の仕方は人それぞれ。
約1時間の制作時間を経て、最後に鑑賞を行いました。美術選択の高校生だけあって、表現方法も多種多様です。
完成した作品の一例。好きなものと苦手なものを座標平面として表しています。幾何学的な形を活かして、関心のあることの表現の仕方にも工夫を加えています。
まずは大胆に色を画用紙に載せ始めるところからスタートした生徒さんも。印象的な色使いで画面を構成しています。
自由鑑賞の時間には、友達の作品を見てそこに描かれていることをきっかけに話がはずみます。「なんでこれ書いたの?」「実はね―」などと会話が広がり、作品を介して新たに見い出せる友達の姿がありました。
完成した人も、完成しなかった人もいましたが、自分自身とじっくり向き合うという体験になったようです。
授業が終わると、多くの生徒さんが梅沢さんの周りに集まり、質問や感想を伝えてくれました。
【2校目】2019年11月18日(月)千代田区立昌平小学校 5年生2クラス44人
続いて訪れた2校目の実施は秋葉原の街中にある千代田区立昌平小学校。
学校の先生が行った事前授業では、梅沢さんの紹介動画や作品集をこどもたちに見せてくれました。作品集では、細部に至るまでじっくりと見ていた子も多く、アーティストによる授業への関心が高まっていたようです。
訪問授業当日、梅沢さんご本人が語る作品紹介では、かつて蒲田にあったホテルの部屋の内装をまるごと手掛けたお話も。ベッドも壁面も梅沢さんの作品で埋め尽くされた写真を見て、思いもよらぬ表現にこどもたちからは「えーっ!」と驚きの声が上がっていました。
梅沢さんから、作品にかける思いを聞くことで、ただ見るだけではわからない作品の世界が伝わってきます。
事前に取り組んでくれた“準備のための紙”には、先生から「100個くらい書こう!」との声掛けを受けて、裏面にわたって書いている子が何人もいました。
自分地図を書くにあたっては、いつもは学校で禁止されている既存のアニメキャラクターを描くことも今回はOK。また、自分が興味関心のある画像を、事前にPCルームを活用した授業で出力するなどして、当日に向けた準備も行いました。
小学5年生のこどもたちが、生まれてからの約10年間に影響を受けたものの一例として多くみられたのが、家族や友達の名前、最近の事象や見ているテレビ、出かけた先、好きなキャラクターなど。
本を参考にしながら絵で表現したり、画像を切り貼りしたり。
最後の鑑賞では、一人ひとりの作品について梅沢さんがコメントをしていきました。
言葉をたくさん書き出した後に、あえて画面をペンで埋め尽くしていった作品。
授業後、こどもたちが一人ずつやってきて、梅沢さんに授業の感想を伝えていってくれました。「図工は苦手だけど、楽しかった」「ほめてくれて嬉しかった」「また絶対に来てくださいね!」「来年も来てね!」「これまで芸術だと思っていたことのイメージが変わった。こういう表現もアートになるんだ、と知って楽しかった!」などのコメントが寄せられました。
(A.T)
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