2019夏 大人向けワークショップ「描く・切る・組む」レポート1
「描く・切る・組む」と題した2019年夏のワークショップは“大人”を対象に実施しました。
講師をつとめたのは、当館所蔵作家でもある画家・美術作家の末永史尚さん。
末永さんは日常的に見ているものや展示する空間に関わるものなどから視覚的トピックを抽出し、絵画や立体作品を手掛けている作家です。
末永さんは、当館が実施している「アーティストの一日学校訪問」2018年度を担当いただいたアーティストでもあります。学校訪問では、「身の回りのものの捉え方が変わる経験」を大きなテーマに掲げ、ものやそれを取り巻く環境について意識した様々な授業を行いました。
大人の方にもぜひそんな体験をしていただきたいと思い、“美術館”という場所性を意識した2つのワークショップを実施しました。
ワークショップは「MOTコレクション第2期 ただいま/はじめまして」展で当時展示中だった末永さんが手掛けた「日用品シリーズ」と「タングラム・ペインティング」に関連した内容です。
共通するのは、平面的な紙を組み立てて立体的な支持体を作ること。そして、その立体に色づけした作品を最後に“展示”するということです。
いずれも“一枚の紙”から始まるワークショップ。いったいどのような展開となったでしょうか。ご紹介します!
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9月21日(土)に実施したワークショップA 「日用品のペーパークラフトを使って制作し、展示する」には、11名が参加しました。
末永さんによって1つずつオリジナルで用意された日用品をモチーフにしたペーパークラフトの数々。
食器用スポンジやガムテープ、ビニールテープ、文庫本、付箋といったものがモチーフになっています。
説明を聞いた後、参加者はくじ引きで制作するアイテムを決めました。
厚手のボール紙から切り出し、貼り合わせたら、ジェッソを使って白い下地を作っていきます。こどもの頃によく読んでいた漫画雑誌の付録を思い出した!との声も。
今回のワークショップで大事なのは、よく観察すること。
実物のモチーフをじっくり見て色作りを行い、白い下地の上に実物そっくりな色を塗っていきます。一筆色が置かれただけで、モチーフとなっているもののイメージが浮かんできます。
色味だけでなく、塗り方にもポイントが。筆跡があるか、ないかでも印象が違ってきます。
人によっては細かい文字が書かれたモチーフもありますが、今回のワークショップでは、忠実に文字を写し取ったり、実物通りに再現したりすることが目的なのではなく、“そのものらしく見える要素を自分自身で選び取り、それを支持体の上に表現していくこと”がポイントです。立体的な抽象画に挑戦なのです!
参加者はそれぞれに試行錯誤を重ね、作品を仕上げていきました。作品が出来上がったら、展示のために館内に移動します。今回のワークショップでは、展示を行うところまでを“制作”として位置づけています。
末永さんからは「作品が綺麗に見えるしつらえではない場所での見え方を楽しんでもらいたい」とのお話がありました。
展示場所として末永さんが選んだのは、ミュージアムショップと美術図書室。
参加者は二手に分かれ、作品を展示します。まずは5分くらいその場所の雰囲気や人の動きを観察し、特性を考え、ここぞ!という場所が見つかったら、そっと作品を置いていきます。
展示が終わったら、場所を違えてそれぞれのグループが展示した作品を鑑賞しに行きました。
ミュージアムショップでは、商品にうまく馴染んでいて見過ごしてしまいそうな作品もあれば、こんな場所にこんなものが?!と不思議な違和感を醸し出している作品もありました。最初は見つけられなかった作品も、目に入った途端に、そこにある存在感が増してきます。
最後に、記録写真をもとに全員で鑑賞会を行いました。
ミュージアムショップのレジ裏手の棚に置かれた両面テープは、一見しただけでは気づきません。
作品を見ると同時に、ミュージアムショップの場所自体もじっくりと観察します。
作品と展示場所との“色つながり”から場所を決めた作品もあれば、普段そのモチーフが置かれることがないような場所にあえて置いてみた作品も。
例えば美術図書室の書棚には、本の作品がまるで忘れ物のように置かれています。
ラベルのない本がこの場所に置かれることによって、周りにあるラベルが貼られた本が際立ってきます。
美術図書室の一番奥にあるトイレの前に置かれたスポンジ。薄暗い空間が、ぱっと明るく見えてきます。この空間に広がっている影と、ものとが呼応しているかのようです。
最後に、末永さんご自身の作品について、紹介がありました。
ご自身も場所性に注目した作品を手掛けており、“その場所にあってもおかしくないもの”を意識しているとのこと。末永さんご自身のお話を聞くことで、今回のワークショップへの理解が深まります。
3時間半にわたって開催されたワークショップを通して、参加者からは「空間にある作品の楽しみ方が分かるようになった」「作品を設置するにあたって見上げたり、見下ろしたり、近づいたり、離れたり、角度を変えてみたりと様々な視点を変えてみる楽しみに気づいた」などといった声が聞かれました。
(A.T)
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撮影:中島佑輔