2018年10月26日(金)

入院中のこどもたちと鑑賞会!

スクールプログラム
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今年度、病院内訪問学級(病院内に設けられた院内学級に通えない、
あるいは院内学級が無い病院に入院中のこどもたちへの学習保障のために
ベッドサイド等で行う授業や教育支援)と連携授業を行っています。
その関係で、授業の無い夏休み期間中に、入院中のこどもたちが
学部を超えてみんなで一緒に楽しめる活動を行うという趣旨の
イベントでも連携してほしいという依頼を受け、
「現代美術鑑賞会~夏休み教室~」を実施(8月30日)しました。

入院中で美術と触れ合う機会が少ないこどもたちが、
美術館学芸員から現代美術の話を聞くことや一緒に活動することを
通して現代美術の魅力に触れ、心豊かな時間を過ごしてもらうことを目的としています。
また、休館中の現代美術館のPRも兼ねています。

今回の授業に参加したこどもたちは、いずれも病室から出られないため、
カメラ・マイク・スピーカーを搭載した分身ロボットを活用し、
ベッドサイドと教室を遠隔で結んで授業を行いました。
ステーションとなる教室は、世田谷区の国立成育医療研究センター内にある
都立光明学園「そよ風分教室」。
この病院に入院している小学生2名と、都心の私立病院に入院している
中学生2名、学芸員との3ヶ所とを結んでの遠隔授業です。
しかし、私立病院との環境設定がうまくいかず、結局ロボットの使用は断念。
急遽タブレットを用いたテレビ電話に切り替えた授業となりました。
※プライバシーへの配慮からこちらにはこども達の様子は見えないよう設定。

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「中央の目が光っているのが分身ロボット。両脇がタブレット」

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「2択クイズに挑戦!」

はじめに担当教員から授業趣旨について説明があり、
その後学芸員による授業開始。
まずは、現代美術館や現代美術について知ってもらおうと、
2択形式で、全10問のクイズにチャレンジしてもらいました。
こどもたちの顔は見えなくてもタブレットからは音声は聞こえるので、
なるべく相槌や反応を声に出してもらうようにお願いしました。
こちらは2つのタブレットの画面に向かって話しかける必要があり、
目線やクイズの問題を交互にカメラに向かって示さなくてはならず
多少の困難を伴いましたが、慣れてくるとスムーズな進行ができるようになりました。
クイズでは、正解に一喜一憂するこども達の声が届き、
また事前にこども達には自分の似顔絵を描いてもらい、
それをタブレットの前に掲示していたので、
顔は見えずとも本人と出会っている感覚にもなりました。

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「泉太郎さんを紹介」

クイズの後は休憩を挟み当館の収蔵作家である泉太郎氏の映像作品を鑑賞。
泉氏の映像作品は、過去「アーティストの一日学校訪問」でも活用しており、
こどもたちとの相性はすこぶる良いと感じています。
今回もタブレットからはこどもたちの笑い声や、映像の作り方の妙に感心している
様子が伝わってきて、映像を楽しんでいるのが実感できました。

授業後にこどもたちから送られてきた感想を紹介します(一部抜粋)。
「画びょうで作った作品など不思議で面白い作品が見られました。
泉さんの作品で、手でつかむ作品では、
つかんだものが映らないように工夫して撮っていたのがすごいなと思いました。
そして、手がどんどん黒くなっていくのも興味深くて、
何度も消したり書いたりしたのかなと想像して大変だっただろうなと思いました。
今回、現代美術鑑賞会をして実物の作品を目で見てみたいと思いました。」(中学部1年)

「クイズで現代美術館の建物を選んだりするのは、難しかったけど、
とても勉強になりました。勘で答えた問題がたくさんあったのに、
けっこう当たったので、とても嬉しかったです。
泉さんの手が出てきて、お店の中にいた人をたたくと、
洋服だけになるのが、不思議だなと感じました。
直接会って、現代美術のお話を聞いてみたくなりました」(中学部3年)

ロボットやタブレットを使用した遠隔授業は、
今後美術館の展示室と病室とをつないだ鑑賞活動の可能性を
探ることができました。
また今回は作家の許可を得て映像作品を活用しました。
モニター越しのため画質の問題はありますが、
絵画や彫刻作品とは違い、現代美術ならではの作品表現でもあり
映像作品は、こうした鑑賞にも効果的であることがわかりました。
なによりも授業に参加したこどもたちが本物の作品を見てみたい、
直接会って話しを聞いてみたいと思ってくれたことは、
この遠隔授業の大きな成果だといえます。

今後も遠隔授業の可能性も含めて、
出会えないこども達との出会いの方法、
また外に出られるようになった後に美術館に行って
作品を見てみたいという前向きな気持ちになってもらえるような
関わり方を模索していきたいと思います。

病気と闘うこども達が、病気を治すこと以外の未来への目標を
ひとつでも多くもつことに、はたして美術館は何ができるのか?
あらためて考えるきっかけにもなった授業でした。(G)

教育普及ブログ