アーティストの一日学校訪問(棚田康司さん)レポート3
【5校目】2018年1月19日(金) 都立文京盲学校 高等部1~3年生11人
テーマ:大切な人を作ろう
普段の学校の授業では粘土を良く使っている、という話を受けて、
文京盲学校では「木」を用いた取り組みを行いました。
用意されたのは、一人20cmほどの高さの木材。
クスノキやヒノキなど、棚田さんご自身が制作に用いている種類の木を
ご用意いただきました。
棚田さんからご自身の制作についてお話いただく場面では、
特別に用意した作品を触察する時間も。
生徒たちは、優しく触りながら鑑賞していきました。
今回、木を素材にして作るのは「大切な人」。
この言葉から想像したものを、具体的な形として表しても良いし、
抽象的なイメージで表しても良し!
まずはこの言葉から想像する人や形を一人ずつ考えていきます。
どんなものをつくるか決めたら、木に向き合い制作スタート。
木を造形していくために使うのは、ノミやノコギリ、ヤスリなど。
ノミを使うことが難しい生徒は、棚田さんと、アシスタントとして来てくれた
彫刻家のお二人が、生徒からの具体的な要望に沿って削ります。
木が削り出されていくに従い、教室の中には、木の香りがどんどんあふれていきます。
生徒たちは、ノミを使うのは初めてでしたが、アーティストや先生方の
サポートを受けながら、上手にノミを振るっていました。
ここは!という部分については、プロの彫刻家の出番。
素早く、どんどん形作ってくれます。
削った部分を触って確認しながら、作り進めていきます。
完成までは行き着きませんでしたが、最後に一人ずつ
どんな思いを持って作品を作ったか発表しました。
「大切な人はお母さん。見えないけど、声がきれいで優しい。
ニコニコした笑顔のお母さんをイメージした」という生徒もいれば、
「人ではなくて、小学1年生の頃から飼っている犬を選んだ」という生徒もいました。
学校訪問授業実施後も、引き続き制作を行っていきました。
【6校目】2018年1月23日(火) 日野市立東光寺小学校 5年生2クラス59人
テーマ:身近なもので先生の頭部をつくろう!
いよいよ最後の訪問校です。
こちらの学校で取り組んだのは、身近なものを使った先生の頭部作り。
図工室の椅子を支持体に、さまざまな素材を用いて制作します。
棚田さんの作品紹介では、クスノキの木屑のにおいをじっくり堪能。
「すげーいいにおいがする!」という声もあがっていました。
続いて棚田さんから今日やることの説明です。
2クラス混合で、3~4人で1グループになったら、どちらの組の
担任の先生を作るか相談。そして、図工室の椅子に先生の頭部を
どう表現するかをみんなで考えていきます。
「正面や側面から見たときの目や鼻の位置、大きさなどをよく見てみよう」
棚田さんから、先生の顔をよく観察するようアドバイス。
細かいパーツから作りがちですが、まずは対象を大きく捉えることが大切です。
プチプチの緩衝材を髪の毛に見立てたり、豆腐が入っていた
パッケージを使って目をつくったり、軽量スプーンが鼻に様変わりしたり。
こどもたちは、先生の特徴をええながら、身近な素材を使って表現していきます。
完成した作品の数々。
作品にはどんな様子の先生を作ったか、タイトルをつけました。
「おどろいているS先生」「笑っているH先生」「何かをさけぶS先生」など、
それぞれの先生の雰囲気が良く出ています。
これらの作品は、2週間ほど図工室前の廊下に展示をして、
みんなに見てもらったそうです。
棚田さんが訪問してくださった6校での実施は、それぞれにバラエティに
富んだ内容となりました。
実施後に送られてきたこども達の感想には、
「何もない所から作る喜び、楽しさを学んだ」
「顔を作るには難しいと思った材料でも、やってみたら面白かった」
「グループで大きな1つの物を作るという楽しさは、いつも1人で
作る作品とは違った楽しさを味わうことができた」
などとあり、どの学校でも普段の図工や美術の授業とは異なる楽しさや
発見のあるひと時となったようです。
最後に、今回の学校訪問を担当してくれた、棚田さんから寄せられた
メッセージを紹介します。
―彫刻の仕事は僕にとって人間を見つめることでもある。―
学校訪問を終えて感じることは、今回関わった全てのこどもたちは表現者であり
未来でもあった。彼らの眼差しはそのままむき出しの純粋性を持ち、『自分』という
可能性を見つめている。僕は彼らの視線にやられてしまう。美し過ぎるのだ。
それに現場の先生が美術制作に対する熱い情熱と深い愛を持ってこどもたちに
接していらしたのが強く印象に残った。学校の先生ならそんなことは当然と
綺麗事のように思い込んでいた。しかし自分の概念が現実を目の当たりにして
変化していく。両者から人間の深いところでの繋がりが感じられるのだ。
現場の先生方は本当に懸命によく動いて下さる。そんな先生方を見ながら
つくづく教育は『生き物』だなと思った。美術教育は生き物と生き物の
ぶつかり合いの中で強さや逞しさ、ある時は汚なさをも伝えながら、諭しながら、
こどもたち本人に新たな自分を発見させていくのだろう。
僕はその一瞬に参加できて彫刻家として幸せな時間を過ごせた。
このような素晴らしい仕事をご一緒できた東京都現代美術館の学芸員の皆様に
心から感謝している。
棚田康司
(A.T)