2018年03月15日(木)

アーティストの一日学校訪問(秋山さやかさん)レポート3

アーティストの1日学校訪問

【5校目】2017年12月14日(木) 都立大泉特別支援学校 中学部5人
テーマ: 誰かへの「宝箱」

5校目の実施となった大泉特別支援学校は、肢体不自由の障害を持つ
生徒さんたちが通う学校です。
今回の授業では、事前に先生と一緒に学校内を散策し、自分たちが好きなものを
撮影しておいてもらいました。
学校訪問当日に、その写真を入れるための箱作りを行い、最後に誰かに
プレゼントする、という内容で実施しました。
初めに、一人ずつ自己紹介を兼ねて撮影したものを披露してもらいました。

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生徒たちによって選ばれたのは、以下の内容です。
ゲームが好きで良くやっているからと選ばれたオセロやパズル。 
普段から植物に水をあげることが好きな男の子は、ジョウロを。
そして、イケメン好きという女の子は、学校で一番カッコイイ高等部の先生の写真です。

生徒たちは、これらの写真を入れるための箱を選び、様々な素材をコラージュして
彩っていきます。

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生徒のうち4人が車椅子を使用しており、中には手足が動かしにくい子も
見られましたが、教員の方々による絶妙なサポートのもと、それぞれが
思いを込めて、宝箱を作っていきました。


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箱が完成したところで最後に"交換式"を行いました。
クリスマス間近ということで、バックミュージックとしてクリスマスソングが
流れるなか、生徒たちは、完成した作品それぞれにつけられた紐を引きました。

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箱を開けると、中には贈り主の好きな物が入っています。
高等部のカッコイイ先生の写真を引き当てた男の子はちょっと
複雑そうではありましたが、クリスマスムードたっぷりの雰囲気の中、
特別な美術の授業の時間となったようです。


【6校目】2018年1月12日(金) 杉並区立浜田山小学校 5年生4クラス125人
テーマ: 「ことばの宝箱」

秋山さんによる学校訪問授業、最後の6校目は、125人という大人数での実施と
なりました。
今回の授業では、こどもたちは二人一組になって進行します。
まず、事前授業では、ペアになった二人で相談をし、自分達にとって
宝物だと思える言葉を一つ決めます。
二人の共通点や、身近だと思える言葉などから考えていきました。
そして決めた言葉とその言葉を選んだ理由をカードサイズの紙に書いておきます。

授業当日の4校時目は4クラス125人が体育館に集まり、全員で選んだ言葉の
"交換式"を行います。

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体育館の3つの扉からは紐が出ています。
こどもたちは、体育館の外側と内側に分かれ、ペアごとに1本の紐を選び、
手繰り寄せあったペア同士が言葉を交換。

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何人かに、引き当てた言葉を発表してもらいました。
こどもたちが選んだ言葉は、スポーツ、命、クリスマス、水泳、笑顔、協力、
字、必笑など。

昼休みを挟んで、後半の授業は、2クラスずつに分かれ、視聴覚室を会場に制作開始!
こどもたちは、引き当てた言葉から、それを保管しておくための箱作りを行います。

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箱作りのために先生が用紙してくれたのは、カラーペンや絵具、
色紙、紐、お菓子や商品が入っていた空き箱、その他普段の図工の
授業ではあまり使わないような細かいパーツなど。
豊富に用意された材料を使って、ペアで相談しながら仕上げていきました。



完成した箱の一部をご紹介します。
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スポーツ好きな二人のためには、サッカーコートを模した箱を作成。
肉大好き!な二人が選んだ言葉には、焼き肉ができそうな網を表現。

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そして、同じ保育園に通っていたという二人が選んだ保育園の名称には、
彼らが大好きだったという木を表現しました。

制作の続きは先生の方で進めていただき、後日、完成した箱には
言葉の紙を入れて、その言葉を選んだペアに返還されました。


以上の秋山さんが訪問した6校での取り組みは、
いずれも「日常」に目を向けることや、他者の思いを受け止めるということを
意識した内容でした。


互いの思いを往還させながら作品を作るという経験は、普段の授業では
なかなか経験できないことだったようで、こどもたちの感想からも、
新たな発見があったことが伺えるものでした。
「自分が箱をもらったときはとても嬉しかった。そして、箱をあげた人が
喜んでいるのを見ると、作ってよかったと思った」
「今まで誰かのために何か作るという図工をしたことがなかった。
相手が自分のことを良く考えて作ってくれたことが伝わってきた」
「友達が作った作品を見て、こういう作り方もあるのか、ということを学んだ」


独自の発想で作品を手がけるアーティストの方との出会いを通して、
こどもだけでなく、教員の方にとっても新たな視点に気づく機会とも
なったように思います。

最後に秋山さんから寄せられた感想をご紹介します。

 「わたし」という存在ー それは唯一無二だ。ひとりひとり、同じ青色を眺めたとしても、100人居れば100の青のグラデーションがあるだろう。ひとりひとり大事なものを持っている、だけど、本人にとってまばゆいそれは、他人にはくすんで映るかもしれない。
 私は今回、そんな自己の芯の部分を他者と共有したとき、互いにどのような変化が生まれるのか、こども達と体現したく思った。それは、年齢や学校によって少しずつ異なったけれど、おもには、他人の思い出と結びついた宝物を包む『いれもの』をつくる内容だった。
 こども達の制作する姿は、まるで旅をしているみたいで、何だか「宝探し」のようにも、私には見えた。宝物の持ち主の僅かな説明だけを道しるべに、時に迷い、道草し、かと思えば、道を教え合ったり、ぐんぐんと進み、見つけ...、やがてそれぞれゴールへ辿りつく。
 こうして出来上がった『いれもの』は、もうこれは立派な作品であり、宝や思いを包み込み、存在ー していたのだった。きらきらと。


秋山さやか


(A.T)

教育普及ブログ