アーティストの一日学校訪問(秋山さやかさん)レポート3
【5校目】2017年12月14日(木) 都立大泉特別支援学校 中学部5人
テーマ: 誰かへの「宝箱」
5校目の実施となった大泉特別支援学校は、肢体不自由の障害を持つ
生徒さんたちが通う学校です。
今回の授業では、事前に先生と一緒に学校内を散策し、自分たちが好きなものを
撮影しておいてもらいました。
学校訪問当日に、その写真を入れるための箱作りを行い、最後に誰かに
プレゼントする、という内容で実施しました。
初めに、一人ずつ自己紹介を兼ねて撮影したものを披露してもらいました。
生徒たちによって選ばれたのは、以下の内容です。
ゲームが好きで良くやっているからと選ばれたオセロやパズル。
普段から植物に水をあげることが好きな男の子は、ジョウロを。
そして、イケメン好きという女の子は、学校で一番カッコイイ高等部の先生の写真です。
生徒たちは、これらの写真を入れるための箱を選び、様々な素材をコラージュして
彩っていきます。
生徒のうち4人が車椅子を使用しており、中には手足が動かしにくい子も
見られましたが、教員の方々による絶妙なサポートのもと、それぞれが
思いを込めて、宝箱を作っていきました。
箱が完成したところで最後に"交換式"を行いました。
クリスマス間近ということで、バックミュージックとしてクリスマスソングが
流れるなか、生徒たちは、完成した作品それぞれにつけられた紐を引きました。
箱を開けると、中には贈り主の好きな物が入っています。
高等部のカッコイイ先生の写真を引き当てた男の子はちょっと
複雑そうではありましたが、クリスマスムードたっぷりの雰囲気の中、
特別な美術の授業の時間となったようです。
【6校目】2018年1月12日(金) 杉並区立浜田山小学校 5年生4クラス125人
テーマ: 「ことばの宝箱」
秋山さんによる学校訪問授業、最後の6校目は、125人という大人数での実施と
なりました。
今回の授業では、こどもたちは二人一組になって進行します。
まず、事前授業では、ペアになった二人で相談をし、自分達にとって
宝物だと思える言葉を一つ決めます。
二人の共通点や、身近だと思える言葉などから考えていきました。
そして決めた言葉とその言葉を選んだ理由をカードサイズの紙に書いておきます。
授業当日の4校時目は4クラス125人が体育館に集まり、全員で選んだ言葉の
"交換式"を行います。
体育館の3つの扉からは紐が出ています。
こどもたちは、体育館の外側と内側に分かれ、ペアごとに1本の紐を選び、
手繰り寄せあったペア同士が言葉を交換。
何人かに、引き当てた言葉を発表してもらいました。
こどもたちが選んだ言葉は、スポーツ、命、クリスマス、水泳、笑顔、協力、
字、必笑など。
昼休みを挟んで、後半の授業は、2クラスずつに分かれ、視聴覚室を会場に制作開始!
こどもたちは、引き当てた言葉から、それを保管しておくための箱作りを行います。
箱作りのために先生が用紙してくれたのは、カラーペンや絵具、
色紙、紐、お菓子や商品が入っていた空き箱、その他普段の図工の
授業ではあまり使わないような細かいパーツなど。
豊富に用意された材料を使って、ペアで相談しながら仕上げていきました。
完成した箱の一部をご紹介します。
スポーツ好きな二人のためには、サッカーコートを模した箱を作成。
肉大好き!な二人が選んだ言葉には、焼き肉ができそうな網を表現。
そして、同じ保育園に通っていたという二人が選んだ保育園の名称には、
彼らが大好きだったという木を表現しました。
制作の続きは先生の方で進めていただき、後日、完成した箱には
言葉の紙を入れて、その言葉を選んだペアに返還されました。
以上の秋山さんが訪問した6校での取り組みは、
いずれも「日常」に目を向けることや、他者の思いを受け止めるということを
意識した内容でした。
互いの思いを往還させながら作品を作るという経験は、普段の授業では
なかなか経験できないことだったようで、こどもたちの感想からも、
新たな発見があったことが伺えるものでした。
「自分が箱をもらったときはとても嬉しかった。そして、箱をあげた人が
喜んでいるのを見ると、作ってよかったと思った」
「今まで誰かのために何か作るという図工をしたことがなかった。
相手が自分のことを良く考えて作ってくれたことが伝わってきた」
「友達が作った作品を見て、こういう作り方もあるのか、ということを学んだ」
独自の発想で作品を手がけるアーティストの方との出会いを通して、
こどもだけでなく、教員の方にとっても新たな視点に気づく機会とも
なったように思います。
最後に秋山さんから寄せられた感想をご紹介します。
「わたし」という存在ー それは唯一無二だ。ひとりひとり、同じ青色を眺めたとしても、100人居れば100の青のグラデーションがあるだろう。ひとりひとり大事なものを持っている、だけど、本人にとってまばゆいそれは、他人にはくすんで映るかもしれない。
私は今回、そんな自己の芯の部分を他者と共有したとき、互いにどのような変化が生まれるのか、こども達と体現したく思った。それは、年齢や学校によって少しずつ異なったけれど、おもには、他人の思い出と結びついた宝物を包む『いれもの』をつくる内容だった。
こども達の制作する姿は、まるで旅をしているみたいで、何だか「宝探し」のようにも、私には見えた。宝物の持ち主の僅かな説明だけを道しるべに、時に迷い、道草し、かと思えば、道を教え合ったり、ぐんぐんと進み、見つけ...、やがてそれぞれゴールへ辿りつく。
こうして出来上がった『いれもの』は、もうこれは立派な作品であり、宝や思いを包み込み、存在ー していたのだった。きらきらと。
秋山さやか
(A.T)