2017年09月20日(水)
「食と言葉」の関係
MOT美術館講座
今回のMOT美術館講座は、アーティスト、
料理家である岩間朝子さんに企画をお願いしました。
テーマは「食と言葉」。
全部で2回行われるその第1回目(実施日9月10日。
2回目は11月4日に実施予定)は、岩間さん同様、
料理家であり、アーティストでもあるジェローム・ワーグさんを
ゲストに迎えてワークショップを行いました。
(現代美術館は現在休館中のため、
場所はトーキョーワンダーサイトレジデンスを使用しました。)
「Rules and Tools」と題された本ワークショップでは、
アーティストから課される「Rule」の下、
さまざまな「Tool」を使って「Gift」(=ラビオリ
※ただし、ワークショップ中は「ラビオリ」という
言葉は使用しないルール)を作り、
他の参加者とシェアして食べるというものでした。
最初に、参加者は会場に入るとインストラクションの入った封筒が渡されます。
封筒には「PLEASE MAKE A CIRCLE / CIRCLEになってください」と書かれ、
中には一枚のカードが入っており、その表面には
「KNOW THE RULES / RULEを知る」
「USE THE TOOLS / TOOLを使う」
「MAKE THE GIFT / GIFTを作る」
という3つのインストラクションが書かれています。
一方、裏面には、
「Is the body a tool? / 身体はtoolですか」
「Is language a tool? / 言語はtoolですか?」
「Is art a tool? / アートはtoolですか?」
「Is togetherness a tool? / 共にある事はtoolになりますか?」
の4つの質問のうち一つだけが書かれています。
ワークショップはこのインストラクションに沿って進められました。
①「PLEASE MAKE A CIRCLE / CIRCLEになってください」
まず初めに、ジェロームさん、岩間さんから
「CIRCLEになってください」
と指示が伝えられ、参加者はテーブルを囲んで、ひとつの円を作ります。
②「KNOW THE RULES / RULEを知る」
次に、ジェロームさんがパスタ生地を引き伸ばし、
切り分け、生地で具を包んで、「Gift」を作る一連の流れを見せます。
このデモンストレーションの過程を見ることによって、
参加者はこのワークショップの「RULEを知る」ことになります。
③「USE THE TOOLS / TOOLを使う」
テーブルの上には25種類の具が並べてあり、
岩間さんが
「これからToolを使ってGiftを作ってください」
と言うと、参加者が25種類の具から選んで各自が思い思いの
「Gift」を作ります。
この具がGiftを作るためのToolであり、
インストラクションのカードの裏の質問にもある
「身体」「言語」「アート」「共にある事」もToolになります。
④「MAKE THE GIFT / GIFTを作る」
参加者は、誰に対してのGiftなのかを考えたり、
他の参加者と話したりしながら、
いくつかの具を選んで詰めてGiftを包んでいきます。
三角形に包んだり、巾着状に包んだり、リボンをつけたり、
包み方もそれぞれ違います。
参加者が作ったGiftを岩間さんとジェロームさんが茹で、
一枚の大きなお皿に盛り付けて、
最後にベシャメルソースをかけて出来上がり。
そのGiftを一つ隣の人に取り分け、自分が作ったものが
誰のもとに渡るのか気になりながら、お皿を回していきます。
実食。
他の参加者が作ったGiftの中に何が入っているのか
ドキドキしながら口にしていきます。
他者が手で作ったものを食べることに抵抗感を感じる人も
いるのではないかと懸念していたのですが、
皆さん抵抗なく食べていました。
食事の後は、トークの時間。
はじめに岩間さんが今回のワークショップの意図や
インストラクションの意味について説明。
かつて岩間さんはカリフォルニアにあるレストラン
「シェパニーズ」でジェロームさんと出会い、
そして、岩間さんがベルリンから日本に戻り、
ジェロームさんはアメリカから日本に移り住んできた時に
二人は再会し、そこで日本の社会で共有されている
"文化のコード"について話したことがきっかけで、
今回のワークショップが企画されたことが説明されます。
次に、ジェロームさんがこれまでのキャリアについて語ります。
両親がアーティストだったこと、そして母の友人だった
フルクサスのアーティスト、ロバート・フィリウの
「アートは人生をよりもおもしろくするもの」という言葉に
影響を受けたことなどが語られました。
また、ジェロームさんにとってアートは自分が世界の一部となるための
ツールだったと言います。
その後は、参加者を交えてフリートーク。
ここでは、具が何か分かりにくいものもあり、
他の参加者に聞いたりすることによって
自然とコミュニケーションが生まれた、
Giftの中身がわからないからこそ普段以上に味わって食べた、
などの意見が出ました。
そして、「Gift」をどう捉えるか、
誰に向けてものなのかなどその受け取り方は
参加者それぞれで異なっていたことも話の中でわかってきました。
なお、ドイツに暮らしていた岩間さんから
「Gift」は英語では「贈り物」という意味があるが、
ドイツ語だと「毒」という意味もあると伝えられると、
参加者からは「えっ!」と驚きの声があがりました。
最後に、一人の参加者から、最近料理が数値化されたり、
レシピ本などによって型にはめられているように感じていたが、
今日は異なる形で食について考えることができ、
参加してよかったという意見もいただきました。
今回のワークショップを通じ、
「調理する」「食べる」という行為を改めて捉えなおし、
日本社会の中で共有されているコードについて考える
きっかけになった一日となりました。(KY)