2013年07月17日(水)

鑑賞授業の可能性を考える

スクールプログラム
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7月11日、東京都教職員研修センターの教員向け研修会、
「各教育団体との連携研修 図画工作科ⅠⅡ」の一環で、
現在開催中の「オバケとパンツとお星さま」展を活用した鑑賞授業を行いました。
テーマは「図画工作科における表現と鑑賞の指導〜美術館との連携を通じて」。
授業者は、台東区蔵前小学校の図工担当教諭、堀江美由紀先生です。
堀江先生は、昨年こどもたちを現代美術館に連れて来て鑑賞授業を行っています。

なぜ、この「オバケとパンツとお星さま」を使って鑑賞授業をすることにしたのか?

一般に学校団体などが美術館に来た際の鑑賞方法として、
作品の前にこどもたちをつれていき、トーカーとよばれる人とこどもたちが
作品についてあれこれ話しながら見る、いわゆる「対話式」による鑑賞が
近年の主流となっています。

しかし、この展覧会は、1点1点の作品が独立してあるのではなく、
空間全体がひとつの作品(インスタレーション)になっているため、
じっくりと一つの作品の前で見るという鑑賞方法には正直不向きです。
しかし、そんな展覧会だからこそ、対話式以外の鑑賞方法の可能性を
探ることができるのではないか。
堀江先生との事前打ち合せでそんな提案を行いました。

また、堀江先生は展覧会のサブタイトル「こどもが、こどもで、いられる場所」という
テーマにも非常に興味を示してくれました。

それは、今回美術館でのルールを緩やかに解放し「さわったり」「はしゃいだり」を
許可しており、これによって、通常の美術館でのルールとは異なる展示室内での
こどもたちのありのままの姿、振る舞いを伺い知る事ができるのではないかということ。
これは、こどもが鑑賞するということを考える上でとても大切なことであり、
美術館と学校双方の思いが合致した点です。
(ちなみに、上記写真は、突然始まった星座ごっこ)

これらの理由から、本展覧会で鑑賞の授業を行う事になりました。

授業の内容は、実にシンプル。
3年生(68人)を美術館に引率し、初めに展示空間内で簡単なギャラリートークを行った後、
こどもたちに自由に本展覧会を鑑賞してもらうというもの。

研修に参加している先生(小・中・高・特別支援)は、鑑賞しているこどもたちの様子を見学し、
そこでのこどもたちの発言や振る舞いを観察し、こどもたちの表情や行動から
「作品に興味をもち、楽しもうする関心、意欲、態度」、
「作品や友達の感じ方のよさや面白いさに気付こうとしてるか、
自分らしい見方や感じ方を見付けているか」などを探ります。

展示室内に解き放たれたこどもたちは、一気に方々へちらばっていき、
その後を追いかける研修に参加している先生の表情も初めは困惑気味でしたが、
目の前に展開するこどもたちの自由でそして創造的な振る舞いに、
いつしか真剣な眼差しでこどもたちの様子を観察していたのが印象的でした。

今回の展覧会は、最後の部屋で大量の布をつかって自由に衣装をつくれる
(展覧会の印象を身体感覚によってフィードバックしてもらうことを狙っています)
変身コーナーを設けています。そこでも、こどもたちは思い思いに変身していました。

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授業終了後、本授業の内容について話し合う協議会と文部科学省の教科調査官、
岡田京子氏による講評が行われました。

協議会では、どこもたちを観察した様子として、
「ドキドキ、わくわくがつながっていた」「非日常を楽しんでいた」
「友達との関わりが見えた」「変身コーナーでは、自分を造形化していた」
「こどもの気持ちを解放していた」などの意見が出ました。

また授業をみることで生まれた自分の中のひらめきや感想については、
「変身コーナーの大量の布が魅力的」「中学生には幼く感じさせる展示内容かもしれない」
「カメラをもたせて、気に入ったポーズをとらせ何を感じたかみてみたい」(本展は一定条件で
撮影が可能です)などの意見がでました。

講評で、岡田氏は、
「こどもの心と身体を動かす企画であった。
こどもの興味や動きを想定した企画内容で、学校の授業作りにも似ている。
変身コーナーでは、最終的に何か作りたくなる図工室のような設えになっており、
見てきたこと(鑑賞)が作ること(表現)につながっている」と
評してくれました。

また、一見すると「ただ美術館で遊んでいるだけじゃないの?」と見えるかもしれないが、
それが「こどもにとってどんな意味があったのかを考える」ことが重要であるとも。

確かに、今回の鑑賞の授業はたからみるとこどもが楽しくはしゃいでいるだけとも見受けられますが、
こどもの振る舞いの一つひとつには必ず意味があります。
それがどのような意味があるのかを意識的に考える事は、
教員側も美術館側も非常に重要であるのはいうまでもありません。

そして最後に「評価」につても触れ、
「たくさんの評価の場面を設定して、評価に追われては意味が無い」と
おしゃっていました。

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今回の研修会は、鑑賞授業の組立て方を学ぶというよりも、こどもたちが美術館にくると
どのように振る舞い、作品と対峙するのかをダイレクトに見て感じてもらう内容でした。

一人ひとりがこども達の振る舞いを通じて、
いろいろなことを考えさせられた一日となりました。
今後、この授業を通じて、鑑賞授業の可能性がひろがっていけばよいと思います。(G)

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